「陸に上がった軍艦」

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日本映画界最高齢(95歳)の新藤兼人監督が体験した戦争とは・・・
「伝えておきたいことがある」として企画された映画は、山本保博監督、
ドキュメンタリー・ドラマ「陸に上がった軍艦」として公開されました。

戦争を扱った映画のほとんどは、英雄がいたり、戦闘シーンがあったり、
悲惨な話でさえ、どこか意図的なカッコ良さを含んでいたりしますが、
事実の奥底をしっかり捉える新藤兼人が描いた自分の体験としての戦争は、
滑稽でバカバカしく、命懸けでそれを演じる悲哀の人間ドラマでした。

映画の中で彼は、一番階級の低い兵隊として海軍に徴兵される。
海軍と言っても船に乗るわけではなく、士官兵の世話をするのが仕事で、
宿舎の掃除や食事の準備をするのが主な仕事だったようです。
と言っても軍隊ですから、訓練などもあるわけですが、武器はない。
ひたすら精神を鍛えると称して、殴る蹴るが日常的に行われ、
担当上官次第では、濡れ衣で拷問を受けて廃人になったりする。

運良く?船に乗って戦地へ赴いた仲間は、船の沈没で戦死?したり、
生き残った者は、板の戦車に棒きれを投げつけて訓練をする。
あるいは、靴を前後逆にはいて、敵の目をくらます訓練をする。
そんなものが何も役に立たないとわかっていても、口には出せない。
当然家族には会えないし、手紙の内容によっても制裁される。
そのすべてが理不尽が当たり前で、絶対服従が軍隊だと教え込まれる。

新藤兼人は、終戦前一年半に体験した軍隊の日常をリアルに描くことで、
普通に暮らしている生活者にとっての、戦争とは何であったのか?を問い、
そのバカバカしさや、苦痛を通して、戦争の惨めさを描いている。
彼はそれを「弱者戦記」と称して、徹底したリアリズムで描いている。
この描き方にこそ、映画監督として大成した新藤兼人の力量があり、
劇的な「ひめゆり」の宮城さんの語りと同じ、真実の迫力があるのです!

しかもこの映画には、事実の中から何を選んで描くかにおいて、
新藤さんらしい人間に対する優しさがあふれており、好感も持てました。
めったにもらえない外出許可の日に、ひたすら奥さんと愛し合う同僚や、
その夫婦を、そっと暖かいまなざしで見る周囲の人たちの心地よさ。
終戦と同時に、仕返しを恐れて姿を隠す上官たちも滑稽でしたが、
そんな場面さえ、人間のしぶとさがユーモラスに描かれていた気がします。

軍隊が人々の生活を守らないことは、誰しもが認めるところですが、
守らないどころか、無茶苦茶にしてしまうものだってことを認識すれば、
憲法を変えてまでの再軍備が、人間としてどれだけ愚かなことかわかります。
ゲームや戦闘シーンでしか戦争を知らない人たちに、この映画を観て欲しい!


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