「着る女」

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~ファッションと女の人生~「着る女」を読んでみました。
著者の筒井ともみさんは、脚本家・作家となっています。
僕はこの人の名前を、まったく知りませんでしたが、
主な脚本作品のリストを見ると、確かに見たものもある。
だけどこの本に興味を持ったのは、そうしたことではなく、
70年代を少女として生きた人の感覚に興味が湧いたからでした。
ちょうど僕の姉の年代で、姉もおしゃれな人だったからです。

内容的には、短いエッセイがたくさん収められていて、
初出は「おしゃれ工房」「ウフ.」に載ったもののようです。
読み終えての印象は、個性的で煌めくような魅力を感じながら、
妙にそれが、雑誌の域を超えた本としての魅力にならない。
雑誌に書いたエッセイが、これは売れそうだから本にしただけの、
まあそれもいいけど、ちょっとつまらなかったなあって感じでした。

出だしから前半は軽快な感じで、60年代末から70年代に掛けて、
著者とお母さんの関係が、お母さんの魅力と共に伝わってくる。
端切れを使い、いつもお母さんの手作りの服を着ていた話は、
少し年代はずれるにしても、我が家でも同じような状況でした。
男の子だった僕も、既製品ではなく母の手作りの服を着ていたから、
なんとなくその感覚はわかる気がするし、一つの幸福な姿です。
貧しい時代が、そうせざるを得なかったのだろうと推測できます。

ですが後半になってくると、そうした懐かしさは型に嵌ってきて、
新しく登場する靴やスカーフやトレンチコートなどの話は、
なんとなく新鮮味がなく、魅力が薄れていく感じがするのです。
どうしてなのかなあ?と思ったら、登場する周囲の人に魅力がない。
控えめで愛情深いお母さんや、伊達ものだった伯父さん、
さらには家族が無くて著者を溺愛した、心を病んだ叔母さん。
そうした人たちの抜き差しならない存在感に比べてみれば、
後半に登場するきらびやかなブランド名が、安っぽさをかもし出す。

端切れでの手作りよりも、センスのいい高級ブランドが安っぽい?
それも著者は、ブランド名だけに頼ることは嫌っているのだから、
そして自分で「これだ!」と思うものしか良いと言わないのだから、
著者の感覚を安っぽいと言うのは当たらないんじゃないの?
自分でもそうした奇妙さは感じながら、やっぱり後半が安っぽい。
だってそこには、人の心を豊かにする愛情が感じられないのです。
僕はやはり、前半の手作りのアップリケに、豊かさを思うのです。

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