「Vフォー・ヴェンデッタ」

近未来を、人々を恐怖に陥れて管理する独裁国家として、
その政府に立ち向かって民主国家を取り戻すまでのお話。
舞台をイギリスにしている点が大胆な気もしますが、
議会政治による民主国家の長い歴史に対する信頼があって、
はじめて安心してみていられるけれど、ありえない話しでもない。
まだ民主主義がおぼつかない国々では、大いにありえる近未来でしょう。

この独裁国家の権力に対して、ほとんどの人は抵抗をしないで、
心に不満を持ちながらも「やむを得ない」と受け入れてしまっている。
ときには正義に反することが起きていても、秩序の維持が大切で、
それを守ってくれるのが政府だから仕方がないと思っている。
この状況こそが現代的で示唆に富む面白みがあるわけだけど、
ここに登場する「V」に関しては少々疑問を持たざるを得ない。

まずこのVなる男の存在があまりにもスーパーマンで、
これでは英雄待望から起きる独裁政治と本質的にかわらない。
さいわい?Vは最後に死んでしまうので、社会を支配はしないけど、
この物語の本質は、特権者による覇権争いと大きな違いはないのです。
なるほどヨーロッパには昔から仮面の男による正義の裁きがあって、
そうしたVの活躍に拍手喝采はしても、その域を出ていないのです。

民主主義の基本である国民主権を失った独裁国家の人たちが、
自分たちの権利を取り戻すために起こす行動のリーダーは、
けっしてVのような特別なスーパーマンではないってことは、
もう僕らの共通認識だと言っていいのではないでしょうか。
そうですね、この映画にそこまで期待するのが無理な話であって、
悪をくじく正義のエンターテイメントとすれば、確かに面白いのです。

まあ、近未来のどこかの国の姿などとよけいな心配をせずに、
「怪傑ゾロ」を見るような軽い気持ちで見ればいい映画でしたね!はい。