「わらびのこう(蕨野行)」

日本映画批評家大賞ほか、たくさんの賞を取っている「わらびのこう」
富山でも上映実行委員会によって、教育文化会館ホールで上映されました。
朝から今期一番の寒さで、今にも雪が降り出しそうなあいにくの天気で、
はたして人は集まるのかと心配したけど、とんでもない大入りでした。
これだけ賞を取って、これだけ人気があるのに、何故映画館公開しないのか?
映画配給会社の囲い込み的な体質は、いいかげん打ち破って欲しいものです。

恩地日出夫監督のきわめて上質な長編映画なのに、音が割れていて聞き難い。
しかもこの映画で大切な語りのセリフは、方言の言い回しを使っているので、
聞き取りにくいと、何を言っているかさえ良くわからなかったりするのです。
ロードショウ公開の快適な映画館は無理でも、せめてもう少しいい環境で、
こうした上質の映画は見たかったものですねえ。これが最初の印象です。
それでも映画自体は、中原ひとみ、市川悦子らの演技がいいでした。

内容としては、60歳で姥捨てされる姑と、姑を思う若い嫁とのやりとりで、
必ずしも目新しいテーマでもないし、新鮮さは特に感じませんでした。
蕨野に連れて行かれた爺さん婆さんが、毎日里に通える場所にいるのも、
あるいは自分たちで種を蒔き、食べ物を作ってはいけないとの掟があるのも、
なんだか不自然な気がして、実際どうだったんだろうかと気になりました。
むしろ、むかし家から捨てられた姑の妹が生き延びていることに共感できる。

新人女優の清水美那はピッタリはまっていたし、市原悦子はいい感じでした。
他の出演者も自然でいい演技をしていたと思うし、風景の自然もきれいでした。
ただ残念ながら、何かハッとするような訴えかけてくるものが感じられない。
まるで定番の昔話を忠実に映像化したような、優等生の映画ではあるけど、
今村昌平監督の「楢山節考」ほど強烈なものは感じられなかったし、
そうかと言って、最後に雪の中で子ども返りする姿も少し物足りない。

それじゃ何を期待して見に行ったのかと言われると、うまく答えられないけど、
社会の規則やしがらみを抜け出した老人たちが、たとえしばらくの間でも、
生きている限り、もっと自由に命の意味を味わって欲しかったように思うのです。
社会の縛りをすべて解き放たれた人が、心まで自由に生きることは出来ないのか?
それが出来ないのは何故か? そこまで踏み込んで欲しかった気がするのです。