「終わらない物語ーアビバの場合」

またまた不思議な興味深い映画に出会った。
前衛的な作風の、トッド・ソロンズ監督作品で、
「終わらない物語ーアビバの場合ー」と言うもの。
去年の6月にシネマライズで公開されたらしいけど、
僕はまったくこの映画を知らなかった。
なんとなく面白そうな匂いがしたので見てみたら、
何だかよくわからないまま途中まで見てしまって、
それからようやくこの映画のカラクリに気がついた。

12歳の主人公アビバの役者が途中で変わっている、
と思ったら、次々と違う役者に入れ替わって、
最終的には8人の役者が一人のアビバを演じていた。
姿形、肌の色や、身長、体重、年齢など、
人は外見上さまざまな様子で生きているけど、
その内面には変わらない何かがずっとある。
そうした外見上の違いに惑わされない内面について、
その多様性まで含めたありのままを描こうとする。

原題は「Palindromes」で「回文」のことを指すらしい。
上から読んでも下から読んでも同じ意味になる、
それが「終わらない物語」ってことなのだろう。
従姉妹のドーンが亡くなって不安を感じたアビバは、
自分はたくさん子供を持って幸せに暮らしたいと思い、
さっそくセックスをして妊娠してしまう。
あわてた両親によって中絶をさせられるけど、
そこからアビバだけの独特の世界が広がっていく。

アビバは大人であったり子供であったり、
白人だったり黒人だったり太っていたりして、
何がアビバの本質なのかを問い掛けながら話は進む。
目が見えなかったり肢体がが不自由だったりする人も、
善人だったり悪人だったり状況次第で変わっていく。
堕胎を悪だとする優しい人たちが医者を殺したりする。
そうした現実世界を渡り歩きながら、結局のところ、
アビバは何ら変わらずに子供が欲しくてセックスする。

ここでは主人公が12歳から始まっているので、
小児愛、堕胎、親権、信仰、政治の話まで絡むけど、
この映画が一番言いたいことは人間の本質だろう。
外見上は決して固定したものではないにも関わらず、
内面は変わらないのだというメッセージだと受け取った。
でも僕自身は、外面で変わる内面もあると思うけどね。