「人生のほんとう」

去年の暮れに、この10年間で一度だけ週刊誌を買って、
せっかくだから紙面の記事を全部読んでみたときに、
2006年を考えた12人の論客が書いた文章を読んで、
「あっ!」っと腑に落ちた唯一の人が池田晶子さんでした。
それ以来、今年になって今までに6冊ほどの本を読んで、
そのうち僕にしては珍しく3冊も本を買ってしまったけど、
今回の本がもっとも人に勧めやすいだろうと思います。

この本は西部池袋のコミュニティ・カレッジで行われた、
「人生を考える」とする6回の講義を加筆修正したもので、
相手に語りかけている感じが全体をわかりやすくして、
珍しく読みやすいままに彼女の考え方に触れられるのです。
内容的にも、常識、社会、年齢、宗教、魂、存在、とあり、
最終的に書かれている内容はいつもとさほど変わらないけど、
人生を味わう感覚が前面に出てきているのが面白い気がします。

各項目別に見てみても、例えば最近話題になる「国」なんか、
国土や国民ならあるかもしれないが、国なんてどこにもない、
と指摘して「思い込み」と「作りごと」だと解き明かす。
この「作りごと」同士の戦争は人間の最大の愚行だと断定する。
あるいは宗教の講義の中では、一神教の危険性を説きながら、
アニミズムこそが世界をありのままに捉える感覚であるとか、
「信じる宗教から気がつく宗教」への転換を勧めておられる。

こうした話は、僕にはとてもわかりやすくよくわかるけど、
池田さんは、そのようの感性を持った人は現代では希で、
およそ千人に一人くらいしかいないだろうとおっしゃる。
残念ながら、この感覚も痛いほどよくわかるから悲しい。
それでも世界を見回せば、イリイチがこの時代の真相を明かし、
チョムスキーはマスコミや政府の経済主義を暴いてみせている。
やがて百人に1人くらいは真実を話せる人が出てくるだろう。