「ある子供」

いい映画には、いつもどこか不思議さがある。
ダルデンヌ兄弟が作る映画はいつもそうだ。
人物のセリフは最小限に抑えられているので、
言葉以外の情景やストーリーから読みとらないと、
何がなんだかわからいことが起きたりする。
だから、おやっ?、あれっ?と思いながら、
熱心に画面から語りかけるものに心を澄ます。

今回の「ある子供」もそんな映画の一つだった。
愛し合っているのかいないのか、最初はよくわからない、
若い男ブリュノと女ソニアの間に男の子が産まれる。
赤ん坊に夢中なソニアと不良仲間の頭のようなブリュノ。
お金を稼ぐために何でもしてしまうブリュノは、
とうとう赤ん坊を売ってお金を手に入れるのだけど、
それを知ったソニアはその場で気を失って倒れてしまう。
あわてて赤ん坊を取り返してくるブリュノ。

あきれ果てるくらいいい加減な男のブリュノなのに、
この男にはどこか憎めない、信頼したくなるものがある。
ソニアとブリュノの、ののしりあえない喧嘩もいい。
かっぱらいから万引きまで、何でもするブリュノだけど、
決して暴力で人を傷つけたりしないし弟分を大切にする。
ソニアに許して欲しくて街中で足元にすがりついたりする。
悪人なのではなく、むしろ人を疑わない純真さがあり、
ただひたすら要領の悪い、いい加減な男なのだ。

ブリュノは捕まった弟分を助けるために警察に行き、
首謀者は自分だと告げて収監されてしまう。そして、
赤ん坊を売ったことでブリュノを拒絶していたソニアが、
面会にやってきて手を取ると、ブリュノが泣き出してしまう。
人間とは、男と女とは、そして親子とはなんなのか?
最後まで派手なところはまったくない映画なのに、
見終わって心に残るものは大きかった。