「悪魔のダンス」

サダム・フセインが書いたという小説を読んでみた。
訳者である平田伊都子さんが取材して書いている、
日本のマスコミには出ないフセイン裁判の記録も面白かった。
それと同時に、この小説自体もしっかりとよくできていて、
アラブ民族にとってイスラム教が何であるかわかる気がした。

この本は先週図書館で借りていながら読む時間が無くて、
明日には返さなくちゃ旅に出てしまうところから、
あわてて少しだけでもと思って昨夜読み始めた。
ところが読む始めると面白くて、一気に最後まで読んだ。
遅読の僕にしてみれば珍しいことでもある。
おかげで明日の詰まったスケジュールが心配になる。

ブログに感想を書くよりも寝た方がいいのかも知れないけど、
どうしても気になって、何か書かずには眠れそうにない。
どうやらこの本は、911事件の後から書き始めて、
アメリカ軍による侵略が始まるまでに書き上げられた、
なんとも不思議な緊張感が漂っているのだ。
これは何を持って価値観にするかの物語とも言えるだろう。

男と女の役割や民族の誇り、富とは何を指しているのか?
そうした根本的な問題を真正面から取り上げながら、
しっかりと、ハラハラドキドキの世界を描いていて面白い。
不正と闘う人々の信頼の中に、お金ではない価値を見る、
こうした価値観による小説自体、現代では貴重だろう。
しかも、僕にも共感できる価値観だったのがよかった。

カネによって権力を得ても長続きはしないってこと。
しかもそれは人を幸福にする富にもならずに、
むしろ長い年月を掛けた信頼によってこそ豊かさはくる。
そうしたエピソードとして読むことが出来るのも面白い。
サダム・フセインは、やはりただ者ではなさそうだ。