「みずうみ」

吉本ばなな)が(よしもとばなな)になってから、
急にこの人の小説が好きになって、全作品を読んでいる。
「みずうみ」は去年の暮れに出た最新作になるだろう。
例によって庄川図書館から借りたまま読んでいなかった。
いよいよ返却期日になって、あわてて本を開いてみる。

どちらかと言えば休養日にしていた昨日の夕方、
二階の窓辺に置いてある一人掛けのソファに座って、
まずは電灯が必要になる日暮れまで読もうと本を開いた。
この人はもう結婚をして子どももいるはずなのに、
小説の主人公は相変わらず一人暮らしの若い女性だ。
家族を思う気持ちがありながら、一緒には暮らせない、
だけどその孤独感をいやしてくれる何かはちゃんとある。

この世界には見えるものと見えないものが混在していて、
物理的にも時間的にも、僕らが見えているものは少ない。
その少ない「見えているもの」を通して見えないものを見る。
「自分がこの世界にいられるのが、大きな目で見たら
 実はそう長い時間ではないと気づいてしまうときの感じ」
ばななの作品には、常にこの見えないものが顕在する。
そして僕は、彼女の世界の広がりに共感するようだ。

読み始めたらやめられなくなって、熱めの風呂に入り、
火照った体を籐椅子で冷ましながら続きを読む。
裸のままくつろいで本を読む時間は贅沢な心地がする。
それも吉本が(よしもと)になってからの作品など、
心まで裸にしてくれる作品は、体も裸で読むのもいい。