弓道場の床

城端にある大福寺の一角に立派な弓道場がある。
毎週水曜日に練習していると聞いたので行ってみた。

このお寺の住職とは3年ほど前に知り合って、
京都の宿坊を預かる話で、現地へ同行したこともある。
こまかいこだわりよりも大局が見られる人で、
日本各地で講演などもしておられる知者でもある。
その住職が学生時代に弓道をやっていて、
このお寺を引き継いだあとに建てた弓道場だ。

この日、住職は東京へ出掛けて留守だったけど、
奥さんと、他の門人が僕らを親切に迎えてくださった。

名簿を見せてもらうと、十人あまり名前があるけど、
普段は4人ほどしか練習に参加する人はなく、
この日は見学の僕らを除けば、3人の参加者だった。
その静けさが、僕にはちょうどよかった。
このところ、大勢の人と話すのが億劫な自分がいる。

しばらく控えの間で話をしてもらったあと、
3人の門人が代わる代わる弓を射るのを見学して、
そのあと基本的な所作の指導もしてもらった。
丹田に重心を置くことを何度も言われながら、
それがどのような状態か、まだ実感としてわからない。
普段使わない筋肉がひどく緊張していたようで、
両足の膝と、そこから下が奇妙に痛くなった。

道場の外側にある控えの場所には畳があっても、
道場の中は基本的に簡素な板張りになっており、
その向こうに芝生の庭があって、その先に的場がある。
これらの空間には、余計なものは何も置いてない。
この簡素さが空間を豊かなものにしている気がした。

道場の床は、昔ながらに門人が雑巾掛けをする。
その床は、素足で立ち入っては行けない場所だ。
脂ぎった人間の肌が触れることを拒むことで、
人間でないものの存在を迎え入れていた。