「亀も空を飛ぶ」

先日東京で見た映画の中で、
マザー・テレサ」と共に良かったのが、
亀も空を飛ぶ」でした。

イラク北部のクルディスタンを舞台にして、
2003年3月の話しとなると、
どうしても現代の戦争映画を見ることになる。
だけどこの映画には戦闘シーンはほとんどなくて、
親を失ったこども達の生活が描かれている。

頭が良くて、こども達のリーダーになっている少年は、
こども達をまとめて掘り出した地雷を売りさばいたり、
村の共同アンテナを請け負って立てたりと、
才能を遺憾なく発揮しながらリーダーとして生きている。
こども達や村の人たちからの信頼も厚い。

その少年がある日、難民としてやって来た女の子に恋をする。
赤ん坊を連れて、両手のない兄と一緒に来た少女は、
しかしイラク兵士による暴行で深い傷を背負っていた。
彼女は少年に心を開くことなく、現実から逃げ出そうとして、
一人では逃げ出せずに赤ん坊を殺して自殺する。

逃げてはいけない、死んではいけないとさとし、
何とか三人で生きようとする少女の兄には、
近付く未来を事前に感知する能力があった。
だけどその予知は、迫りくる不幸を止められるわけではない。
その兄の深い絶望と、あきらめない姿に心を打たれる。

最後まで少女への思いを貫いて負傷する少年。
その少年の気持ちを知りながらも絶望から抜けられなかった少女。
そのふたりを温かく見守る仲間たちに囲まれながら、
やるせない思いはどこまでも癒されずに続いていく。
その全部を見守る少女の兄の心を思うとあまりにもせつない。

おとなは勝手な正義や利益を求めて戦争し、
いつもその犠牲になるのは女やこども達なのだ。
戦争はけっして弱い人々を守ったりしない。
この映画では誰も何も主張していないのに、
そうした思いが自然と伝わってくる。

2005年ベルリン国際映画祭平和映画賞をはじめ、
サンセバスチャン国際映画祭グランプリなど、
世界中で28もの賞を取りながら、日本ではなかなか見られない。
こんな映画を見いだして上映する岩波ホールもすてきだと思う。