「性転換する魚たち」

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岩波新書出版で「性転換する魚たち」(桑村哲生:著)を読んだ。
魚の世界では頻繁に性転換が起きていることは知っていたけど、
どのような仕組みで起きるのか興味があったので読んでみた。
すると海の中でいつも興味深く見ていたことの正体がいくつかわかった。

たとえば水中写真を撮っていると、いつも必ずペアでいる魚は、
どうしてそのようにうまく一対になれるのか不思議に思っていた。
あるいはクマノミなど、一見家族に見えるグループの存在も不思議だった。
たとえば一つのイソギンチャクに3匹以上のクマノミが生息している場合、
一番大きな個体だけがメスであり、次に大きなのがオスだと知っていたから、
その他は子供だと思っていたら、これも大きな間違いだった。

クマノミの世界では一番大きなのが必ずメスになり、次がつがいのオス、
その他の小さいのは、どちらかが欠けたときの予備のオスだと書いてある。
たとえば一番大きいメスが死ぬと、二番目に大きかったのがメスになって、
その次にいた予備のオスがつがいのオスに昇進するのだ。
こうしたペアを組む魚では、大きい方がメスとなってその他はオスだ。
ところが群れを成す魚では、一番大きなものがオスでその他はメスだ。

その中間として、ホンソメワケベラやツマジロモンガラなどの魚は、
序列を組むいくつかのグループを、一匹のオスがなわばりとして仕切る。
そしてこれらのどの場合にも、一匹しかいないオスかメスが死ぬと、
違う性の一番大きなヤツが性転換をすることになる。
それは決して昔ローレンツが言ったような種の保存のためではなく、
あらゆる個にとって、それが一番子孫を残せる形だからに他ならない。

この話は魚の性転換に関する研究成果ではあるけど、
すでに性転換をしない陸上動物でも、原則は同じらしい。
そして人も、人類の繁栄のために生きているわけではなく、
個々の命の繁栄を目指して社会的な協調さえもするのだろう。
あらゆる命は、その個性の繁栄を目指して生きているのかもしれない。