「医療経済の嘘」

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毎年上がり続ける日本の医療費は、なんだかおかしい、
と思っていても、何がおかしいのか僕には分かりませんでした。
それがこの本を読んで、謎の一端が分かった気になった、
謎のもやもやが、薄曇り程度に開けた気がしたのがこの一冊です。
医師でもある森田洋之さんが執筆して、ポプラ新書から、
今年の6月に出版された、「医療経済の嘘」という本です。

「○○○が多い県に住むと医療費が2倍になる!」
表紙にはサブタイトルとして、こんな刺激的な表記もある。
医療費は毎年上がり続けているけど、世界を見回しても、
日本ほど医療費を使っている国は、他にないのが現状です。
国民皆保険により、誰でも安く医療サービスを受けられて、
安心には違いないけど、何かおかしなことが起きているのです。

「人口10万人あたりの病床数と、一人あたりの入院医療費の関係」
この図を見ると一目瞭然で、はっきりと正比例しています。
都道府県の高齢化率の高低を考慮して、補正した場合でも同じで、
高齢者一人あたり入院医療費は、最高額の高知は最低額の岩手の2倍。
高齢者以外の入院医療費でも、最高額の鹿児島は最低額の愛知の1.76倍で、
病院の数とベッド数が多いほど、医療費は高額になっているのです。

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しかもこの医療費に比例して、市民の寿命が延びたのかと言えば、
そうした相関関係はないようで、ただ病床数と金額だけが比例します。
実際に平成19年に病院がなくなった、夕張市の死者を見ても、
長期の病人は減っており、逆に老衰による死者が増えているのです。
著者の森田さんは、医療施設が十分にあることによって、
医者としてのエビデンスが、死なない対応を選ぶことを指摘します。

多くの患者は寝たきりになることを望まず、なるべく自力で食事して、
自宅で暮らしながら死んでいきたい、と考えているようです。
しかしいったん病院に入ると、医者は少しでもリスクを減らして、
無事に生きていて欲しいと考えますから、入院を勧めるのです。
安心安全のためには、安静にして寝ているのが最善と考えて、
最終的には胃瘻や人工呼吸によって、医療管理をされていくのです。

森田さんは原因として、次のような問題を掲げています。
(1)医師と患者間の知識や情報の格差。
(2)収益を上げなくては経営できない病院経営の問題。
(3)通常の日常生活を送れない人を隔離収容する日本の文化。
これではまるで、一時期の精神疾患に対する隔離と同じで、
僕らは高い医療費を払えば払うほど、望みもしない医療が行われる。

世界的にも、こうした医療行為を反省する動きがありますが、
2012年の調査では、日本の病床数と医療費は圧倒的に多い。
人口10万人あたりの病床数は、スウェーデンで270、
イギリス290、アメリカ300に対し、日本では800~2400。
この病床数の多さが、医療費の多さと比例しているのがわかり、
医療費抑制のためには、病院を減らそうとするのがわかるのです。

問題はそれだけでは済まない気もしますが、少なくとも現状では、
こうした病院や病床の過多によって、歪な現象が起きている。
まずはこの医療過多を、エビデンスの修正としても改善することで、
医者と患者の気持ちのズレを正し、お互いの信頼を取り戻して欲しい。
お互いの信頼関係の上で、どのような治療を望むかを話し合い、
お互いに満足のいく医療が行われることを、切に望みます。