「シュリンクス」

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脳行動研究財団からリーバー賞、アメリカ精神医学会からマイヤー賞、
米国精神科学会議からディーン統合失調症研究賞、など数々の賞を受けた、
アメリカ精神医学界の元会長である、ジェフリー・リーバーマンの著書。
~誰も語らなかった精神医学の真実~と言う、「シュリンクス」を読みました。

この本を読む以前の、僕の精神医学に対する印象はひどいもので、
フロイトなどの精神分析はまだしも、施設に閉じ込められる恐怖があった。
それは僕だけの印象ではなく、多くの人が精神疾患に関わりたくないと思って、
家族に煩った人がいても、ひた隠しにされてきた歴史があると言われます。
だけどこの本を読んだことで、僕の精神医療に関する印象は一変します。

実際に僕が生まれた20世紀半ばまでは、精神疾患に有効な治療方法はなく、
フロイトに始まった精神分析によって、気の長い解決を探っていました。
精神分析を受ける財力もなく、治る見込みのない多くの精神疾患の患者は、
出られる当てのない収容所に入れられたまま、生涯をそこで過ごした人も多い。

10代の頃に僕が最も恐れたのは、人とは違う事を言うことによって、
精神がおかしいと思われ、精神病として収容所に入れられることでした。
一度収容所に入れられてしまえば、自分が正常であると証明することは難しく、
いつ出られるか分からないし、出た後も精神病のレッテルを貼られてしまう。
それは自動的に、まっとうな社会生活からつまはじきにされることでした。

この「シュリンクス」の中でも、過去にそうした歴史があったことは記され、
しかも僅か50年前まで、精神医学界には大きな変化がなかったというのです。
僕の知識はその時点のもので、それからの50年に大きな変化があって、
精神疾患の多くが、治療できるものになったことはほとんど知りませんでした。

精神疾患に対する最初の有効な治療は、1950年代に大ヒットした精神安定剤
ミルタウン(メプロバメート)によって、幕開けしたと言っていいでしょう。
ミック・ジャガーが「小さな助っ人」と歌ったことで、世界的に有名になり、
その後も新しい薬が登場して、精神疾患は治療可能なものとなっていったのです。
1960年代にクロルプロマジンが出ると、収容所の多くが閉所されていく。

1970年代になると、意外にもビートルズの世界的大ヒットによって、
資金力に余裕の出たEMIは、脳内CTスキャンの技術を確立することになる。
さらには1980年代になって、脳内PETスキャンができるようになると、
脳内の活動が詳しく分かり、薬の効き具合も目で見て確認できるようになりました。

さらに様々な治療の中から、薬ではなく対話による認知行動療法なども認められ、
また新たにPTSDなどの障害が、精神医学によって研究されるようになる。
そして生きている人間の脳内を観察しながら、様々な治療をすることが可能になり、
21世紀にはまったく新しい医療分野として、精神医療の世界が脚光を浴びたのです。
この驚くばかりの進歩が、この本にはわかりやすく書き記されていたのです。

人間とは何かと考えたときに、肉体だけではなく精神を理解する必要がある。
それにもかかわらず長い間、精神の病はアンタッチャブルであったのが、
1980年以降の50年間において、大きく様変わりした様子は素晴らしい。
にもかかわらず僕らは無知で、こうした現象をまったく知らないままだったのです。

精神疾患に対しては、いまだに多くの人たちは隠したがるし表には出さない。
だからこそ僕たちは、隠された真実を知ることによって人間を理解する必要があり、
すべての人が持っている、幸せな人生への挑戦において差別されるべきではない。
人とは違う事で精神病とされることを恐れた若い頃から、こうした人間理解が進んで、
今では自由な感覚を味わえるようになったことを、この本は教えてくれたのです。