「地理」6月号
毎月刺激的な記事の多い、古今書院の「地理」6月号の特集は、
「変る農村と田園回帰」と言う、なんとも気になるものでした。
現政権の目玉政策の一つである、地方創生とはいったい何なのか、
これに関連する南砺市においても、いくつもの政策が実施され、
その全体を「南砺で暮らしません課」、と言うのがまとめています。
要するに他府県から、特に都市住宅地からの移住者を増やすことで、
将来は限界集落になる、とも言われる地域に人口を増やしたい。
そして南砺市の中では、今ある空き家を少しでも有効利用しながら、
今後の町中を活性化したい、と言う期待があるものと思われます。
僕自身も「協働のまちづくり」に参加しながら、将来を考えている。
こうした地方行政や地方住民の活動とは、学問的に見てどうなのか?
どのように位置づけられて、どのような方向性が見いだせるのか?
そうした議論や論文は、田舎暮らしではなかなかお目に掛かれない。
と思っていたら、ちょうどそうした小論文をいくつかまとめたような、
特集をしていたのが、今月の「地理」6月号だったというわけです。
「田園回帰とうかに向き合うか」 小島泰雄(京都大学教授)
「田園回帰における継業」 筒井一伸(鳥取大学教授) ほか
「農山村の高齢社会化田園回帰の可能性」 中條暁仁(静岡大学准教授)
「田園回帰は反都市化のさきがけか?」 磯田 弦(東北大学大学院准教授)
「市町村単位の人口推移から田園回帰を考える」 山神達也(和歌山大学准教授)
「農村空間の商品化と”田園回帰”」 中川秀一(明治大学教授)
「田園回帰と連帯経済の接点をさぐる」 立見淳哉(大阪市立大学大学院准教授)
「住み継がれる」概念と「縮み方シナリオ」 佐久間康富(和歌山大学准教授)
ざっとこれだけのタイトルが並びますが、注目したいのは地域の広さで、
日本各地で田園回帰をテーマにした議論が、広がっていることが分かります。
そもそも田園回帰とは何か?と考えるとき、田園という呼び方と言うのは、
田舎暮らしや農村暮らし、多くの場合に農的な暮らしを考えて言うわけですが、
筒井教授のグループによる論文を読むと、「なりわい」と言う言葉が出てきます。
都会の就労と違って、田舎暮らしにおける生計の立て方においては、
雇用はむしろ難しく、それが都市部からの移住を難しくしていると思われますが、
これを家業でなく引き継ぐことを、「継業」として表現しているのです。
また実際の移住者が、その場所に定住できるかどうかの問題としては、
集落の持つ特性で、移住する人をどの程度の距離感で受け入れるかが大切になる。
さらにこうした現状分析や、問題解決のための思考と合わせて興味深いのが、
田園回帰は将来に向けて何を生み出すのか、磯田准教授の考察も興味深かった。
国際的な視点で見ても、都市部から田園へと向かう流れはあるのかどうか?
生活スタイル自身を田園的なものに変えようというのが、僕らの視点ですが、
そうした視点も確かに動き出していると見るのも、興味深い観点でした。
内容は「田園回帰」が中心ですが、ちょうど今が旬の話題でもあり、
今まで多く話題になりながら、学術的に考察は少なかったのではないか?
特に僕のような学者ではない者は、身近な話題がどのように論文になるのか、
興味深いところでもあり、最後まで面白く読ませていただきました。
特集以外では、寅貝和夫氏による現在の浪江町の記事に迫るものがありました。