「喜びのトスカーナ」

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イタリアのトスカーナ州にある、いかにものどかで、
緑豊かな丘の上に、診療施設「ヴィラ・ビオンディ」がある。
この施設には、様々な問題を抱えた人が暮らしながら、
社会復帰するための治療を受けていますが、そんな中に、
自称伯爵夫人ベアトリーチェが、女王様のように振る舞っている。

そんなある日、若くて美しい新参者ドナテッラが入所すると、
ベアトリーチェは彼女に興味を持ち、ルームメイトになります。
そしてある日、偶然にも不意に訪れたチャンスを活かして、
二人は施設を抜け出し、行き当たりばったりの旅を始めるのですが、
その途中でドナテッラは、昔の辛い過去を思い出してしまう。

不倫の子を産んだあとで、父親である男に冷たく無視されて、
絶望的な気持ちから、子を道連れに海に飛び込んでしまった記憶。
二人は見ていた人たちに助けられますが、親子は引き裂かれ、
子どもは養子縁組によって、別の家族に引き取られていったことで、
自暴自棄になったドナテッラは、施設に運び込まれることになる。

ベアトリーチェとの逃亡生活で、彼女は再び怪我と絶望によって、
病院に収容されますが、ベアトリーチェは彼女の痛みに共感し、
彼女を病院から救い出して、子どもに会わせるために奔走するのです。
家族から見放されていたベアトリーチェが、ドナテッラの望み、
自分の息子に会わせるために努力して、それが偶然に叶えられる。

共に男に捨てられ、家族から疎まれた女と家族を持てなかった女、
共通する痛みが切ないのですが、二人はいつしか心を通じ合わせて、
お互いに必要な存在になっていくのが、見る者をホッとさせる。
人生を苦しむだけ苦しんだら、少しは気持ちを楽にして、
幸せな感覚を味わって欲しいと思う、それがわずかながらある。

この二人が出会った男たちは、とんでもない食わせものですが、
そんな不運を背負った女たちの友情は、なんだか共感できてしまう。
決してハッピイエンドではないし、苦しいばかりでもない、
ほろ苦い人生の中で、女同士の友情が救いになっている物語は、
思うように行かない人生を、味わい深いものと教えてくれるのです。

現代のイタリアを代表する映画監督、パオロ・ヴィルズィ監督で、
やはりイタリアを代表する女優二人が、個性豊かに共演する。
それだけでも十分に見応えあるでしょうが、物語は興味深くて、
次々に訪れる変化に富んだ美しいシーンも、とても味わいがあり、
様々な賞を受賞した、現代のイタリアを教える価値ある作品でした。