「夏美のホタル」

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森沢明夫の原作小説も、人気はあるらしいのですが、
僕は実は、この作家の小説は読んだことがありません。
今回映画を見たのも、なんとなくに過ぎなかったのですが、
見終わってから、心に引っかかる何かを感じたのです。
それは僕が日頃考えている、人の生き方とは少し違って、
人間とは何かを考えさせる、素朴な真実のことでした。

この映画を見ようとした理由は、ホタルの川の風景に惹かれ、
そこに佇む有村架純さんの姿に、心を惹かれた所為もある。
上映してみると、吉行和子光石研小林薫等の脇役も魅力的で、
架純さんが演じる河合夏美に、寄り添って見ている自分がいる。
プロのカメラマンになりたくて、専門学校に通う夏美は、
同じプロを目指していた夏美の彼氏が、才能に限界を感じ、
実家の家業を次ぐと聞いて、一人バイクで旅に出ます。

すでに亡くなっている、父との思い出の場所を訪ねて
河原でホタルを探しますが、ホタルはうまく見つかりません。
森の中でキャンプをしますが、近所の雑貨屋で恵三に出会うと、
足の悪い息子と母親との暮らしに、寄り添ってみたくなる。
そして部屋を借りて住み込み、恵三の不自由な身体のわけを知り、
彼の唯一の友人である、仏師の雲月とも知り合うのですが・・・

この先のストーリーや詳細は、ここでは書きませんが、
夏美を追ってやってきた彼氏から、結婚を申し込まれても、
夏美はそれを受け入れられずに、どうして良いか決めかねます。
夢をあきらめない夏美にとって、彼氏が家業を継ぐことは、
裏切り行為のようにも感じるし、父に対する申し訳なさもある。
レーサーだった父が現役を退いたのは、自分を育てるためだった、
と思い込んでいたために、後ろめたさを引きずっていたのです。

だけど恵三が倒れて病院に運ばれ、彼の妻子のことを知ると、
家族に迷惑を掛けまいとする男の気持ちと、裏腹の愛がわかる。
余命が少ないとわかって、恵三の妻子が呼ばれて再会し、
喜ぶ恵三を見る内に、親子の愛情が少しずつわかるのです。
そして恵三が、夏美の父とも出会っていたことを知り、
父親の子どもに対する愛情の、本質に気づいていくのです。

誰もうまく言葉では言い切れませんが、恵三が受け継いできた、
親から子へと繋がる愛情こそ、説明を超える真実であること。
どんなに苦しくとも、子を持って育てることは幸せであると知る。
人間にはこの世界に生を受けて、生まれてくる喜びがあり、
生まれてからは、親から愛情を受けて育つ喜びがあって、
そしてもう一つ、子を愛して育てる喜びがあると教えられます。
恵三の名前こそ、この三つの喜びを表していたのです。

人間が綿々と行ってきた、親から子へと受け継いできたものは、
この恵みや喜びを味わって伝えること、そう理解できました。
人生に夢を持ち、その夢に向かって生きることは素晴らしいけど、
僕らはここに生まれてきたことと、大きく育てられたことで、
すでに2つの喜びに恵まれて、ここに立っているのです。
3つめの喜びに恵まれることに、後ろめたさなどないのです。