「質素であることは、自由であること」

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今から6年前の2012年6月に、リオデジャネイロで行われた、
国連の「持続可能な開発会議」で、一躍有名になったのが、
当時ウルグアイの大統領、ホセ・ムヒカさんのスピーチでした。
「資本主義や競争社会をいくら続けても、人々は幸せになれない!」
と訴えたムヒカさんのスピーチは、世界の指導者を驚かせ、
新しい時代を求めた僕らには、大きな勇気をもたらせたのです。

僕も2016年の4月の記事で、ムヒカさんを紹介していますが、
彼は「世界で一番貧しい大統領」として、日本でも有名になりました。
自分の大統領職の収入の多くを、貧しい人たちのために寄付して、
自分は田舎の小さな農場で、妻と二人で質素に暮らしている。
その妻もまた、ムヒカさんとともに戦った戦士であって、
選挙で最も多くの得票を得た、国会議員のリーダーだと言います。

大統領の妻ともなれば、質素と言っても優雅な暮らしの人が多く、
それがムヒカさんと同じ闘志と聞くと、俄然興味がわいたのですが・・・
彼女のことは、ムヒカさんほどの情報はなくてわからないことが多く、
そのまま月日が過ぎて、いろんな情報の奥に忘れかけていました。
それが有川真由美さんによる、インタビューをまとめた本が出たと知り、
さっそく手に入れて読んだのですが、やっぱり素晴らしい内容でした。

それがこの幻冬舎から出ている、「質素であることは自由であること」で、
この本を読むと、ますますムヒカ夫妻が好きになってくるのです。
彼女の名前はルシア・トランポスキーで、もとは裕福な家の娘でしたが、
子供のころから貧しい人を助け、革命を求めた社会運動に身を投じて、
そのまま投獄され、長い間収監されている間に子を産む時期を逃しています。
根っからの弱者に対する共感をもって、今も活動していると言っていい。

ウルグアイのことを、南米の貧しい国としかご存じない方であれば、
それは欧米的な視点でしかないし、過去の歴史も知らない人でしょう。
アルゼンチンとブラジルに挟まれた小国ながら、かつては繁栄を極めた国で、
今でも南米ではチリに次いで、生活水準が安定した国と言われています。
一度スペインに支配されていますが、それ以前は女性も男性と同じように、
外で働いていたし、政治にも戦争にも参加して当たり前だったそうです。

そしてスペインから独立をして、もう一度独立国家となったときに、
女性の地位は再び表に出ますが、そうした歴史も抑えておく必要がある。
そんな国で大統領や国会議員になるには、よほどしっかりした考えがあって、
既成の価値観になびいていないから、真実が見えたのだと言えるでしょう。
この本の中では、直接インタビューで聞いたことを中心にしながら、
著者が受けた印象や、ムヒカさんのことも様々に書かれていて面白い。

「人が物を買っているのは、お金で買っているのではない、
 お金を得るために割いた人生の時間で買っているのです」

「貧乏な人とは少しも物を持たない人ではない
 無限の欲があって、いくら物があっても満足しない人のことです」

「本当は生きているだけで満点で、
 そこからできたことを喜ぶ、加点式であるべきです」

「人間の幸せは、同じ人間のように命あるものからしかもらえない、
 物は人間を幸せにはしてくれません」

「一人じゃなくて、誰かといることが大切です。
 そこで人と人の間でどれだけ譲らなければならないかを学べるのです」

「平和と言うものは、温かい気持ちで人と繋がろうとすること」

「唯一よい中毒は、愛すること、それ以外は忘れてしまいなさい」

「私たちは、自分の思い通りの人になる」

この最後の言葉は、僕自身が同じように感じているので、
ルシアさんの言葉として出てきたのは、ちょっとした驚きでした。
読み終えて思うのは、この本がまるで人生の金言集のように、
人の真実を突きながら、今ある社会の価値観を批判していることです。
こうした信条こそ革命の核であり、政治は哲学を持った言葉により、
成り立つものだと、あたらめて認識させてくれたのです。

どこまでがルシアさんで、どこからがムヒカさんの言葉なのか、
読んでいるうちにわからなくなったりしましたが、それでいいのでしょう。
二人は同じ理想を持って戦い、人生の大半をささげてもなお終わらない、
共に戦う同志として、そのまま夫婦になったようなお二人なのです。
ムヒカさんだけではなく、ルシアさんのことも知ることで、
人生の何か、大切なものを学べるような気がしました。