五行歌集「プロジェクションマッピング」

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すでに五行歌に関しては、知っていましたから、
違和感なく読んだのですが、よく心に届く本でした。
前回読んだときは、もっと若い子どもの作品集で、
新鮮ではあったけど、自分とは違う世界でした。
だけど今回の作者である、三葉かなえさんは、
既に大学を卒業した社会人で、世界が通じている。

 身体を
 ちぎっては捨て
 ちぎっては捨て
 道に落としてきたのに
 まだ私を見つけてくれないの?

こんな歌に、学生時代を思い出したかと思えば、

 私の精神は天にいて
 この身体は借りている器
 無意識に
 それで生きていたときがあった
 何でも耐えられた

これは自分が若かった頃、一人で旅した頃に、
よく観じていたことでもあって、懐かしく思った。

本は七つの章にわかれており、
「吐息の膜」「秋の鱗」「雲の額縁」「新緑の氷山」
「星の精」「生きている証」「破壊と誕生」とあるけど、
一つ一つの歌には、せつない吐息の匂いがある。
日常生活では言えなかった言葉が、五行歌によって、
場所を得て、表現される様子が瑞々しい。

それぞれの表現に、何かハッとさせるものがあって、
これは才能なのだろうか、この人の芯が伝わってくる。
傷つきやすいから、黙って暮らしていた人が、
大学の文学部を出て、五行歌で自らを表現し始めた。
人生には何があるかわからないし、少なくとも、
可能性だけは抱いて、生きていたいと思う。

 久しぶりに友人に会ったような
 つんとする香りと
 ゆげと共に登場する白い光を
 つい頬張ってしまう
 白米、炊けました

ひとたび術を手にすれば、日常までが光り輝く、
これがあるから、生きているだけで素晴らしいと思う。
俳句ではなく和歌でもない、575の枠でさえない、
この自由さを手に入れれば、怖いものはないのだろう。
ちょっと自分でも意識して、挑戦してみたいような、
五行歌の力を教えてくれる、力のある本でした。