「好きにならずにいられない」

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2015年北欧映画No.1を決定する、「第12回ノルディック映画賞」に輝いた、
アイスランドの映画、「好きにならずにいられない」をDVDで見ました。
43歳で独身の男フーシは、女性と付き合ったことが一度も無いという、
ジオラマ・オタクの大男ですが、吹雪の夜に一人の女性と出会って恋に落ちる。
だけど相手の女性は、誰にも解決できないような心の問題を抱えており、
フーシは振り回されますが、ふたりはつかの間の恋に燃えるのです。

人見知りが激しくて口べたで、自分にコンプレックスを持つフーシは、
外の世界に飛び込む勇気が無いのですが、心根はとても優しくてナイーブです。
職場の仲間から悪ふざけで意地悪をされたりもしますが、それを恨むこともなく、
淡々と日々を過ごしていきますが、うまく周囲に溶け込むことは出来ない。
そんな彼が初めて恋をして、その女性をあくまでやさしく好きになると、
その女性のために、自分に出来ることなら何でもしてしまいます。

シャイで不器用な男性が、相手の女性を思いやりながら近づいていって、
彼女が心の病を抱えていると知って、なんとか力になろうとします。
やがて少しずつ心を開いた女性は、フーシを受け入れたかに見えたのですが、
定期的に酷くなる鬱病の症状によって、再び周囲のすべてを拒否してしまいます。
お互いの心に巣くう孤独によって、強い絆で結ばれるかと思うのもつかの間で、
彼女の孤独は深く、それを知ったフーシは無理強いはせずに去って行く。

15歳で親元を離れて、一人で生きてきたという女性が抱える孤独の闇に、
ジオラマ・オタクがやさしく触れて、お互いに新しい世界が開けそうにも見える。
どん底にあえぐ女に、全身全霊で手をさしのべるフーシでしたが、
その闇はあまりにも深く、幸せはつかの間で、また闇がすべてを閉ざします。
北欧のアイスランドに暮らす孤独な人々は、心底寒さで凍えているかのように、
閉ざされた闇が見えるのですが、フーシの優しさが限りなく救いにも見えるのです。

社会の底辺で暮らす人々の、やるせない孤独や心の病を描きながら、
太っちょの大きな体で優しいフーシの存在は、暖かい人の心を思い出させる。
華やかなところはまるで無い映画なのに、心が安らかになってくるし、
人間の有り様というものに、深く思いを巡らせてしまう映画だったのです。
心の闇が増えた現代社会で、僕らはどのように人と接すれば良いのか、
フーシの優しさに、何かを考えさせられてしまう映画でした。