「絵本ものがたりFIND」

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朝倉書店から出ている、シリーズ絵本をめぐる活動②、
「絵本ものがたりFIND」を、読んでみました。
絵本に関する本と言うことで、軽いタッチを予想していたら、
思いのほか濃い内容で、しかもけっこう面白かったです。
執筆陣も学者や作家、評論家など22名が参加して、
それぞれ自由なタッチで、持論を展開しています。

全体は6つの章に別れており、それぞれに3~4本の、
様々な執筆陣による文章があって、読む者を飽きさせません。

第1章 「 子どもが紡ぐ物語 」 
  砂上史子、岩田恵子、丸谷充子、古屋淳史、(コラム)村中李衣 
第2章 「 視覚から生まれる物語 」
  中川素子、原島恵、甲斐聖子、(コラム)久保沙由里 
第3章 「 ナンセンス絵本と不条理絵本 」
  土井章史、高頭佐和子、今田由香、澤田精一 
第4章 「 変形していく物語 」
  奥山恵、構大樹、小川純子、大島丈志、(コラム)森覚 
第5章 「 絵本の翻訳 」
  芦田川祐子、金光陽子、井上征剛
第6章 「 絵本で物語るとはどういうことか 」
  百々佑利子、今田由香、大島丈志 

これだけの見ても、興味をそそられますので、
自分の関心のある表題から、読み始めてもいいでしょう。
僕は特に「子どもが紡ぐ物語」と、「変形していく物語」が、
表題から惹かれて読み出しましたが、やっぱり面白い。
まず初っぱなの砂上史子さんの文章で、子どもの哲学が出てきて、
大人とは違う子どもの世界にも、哲学だってあると言う。

僕は子どもの頃から、そうした感覚は自覚しており、
表現を求めて考えているうちに、大人になってしまった。
そんな感覚があるので、ぐいぐい内容に惹かれていったら、
「身体を介した世界の理解」と、身体知の世界に入るのです。
考えてみたら当然のことですが、子どもの世界と大人の世界は、
完全にリンクして、一つのワンダーランドだったのです。

「変形していく物語」で、僕が特に興味を持ったのは、
絵本はその挿絵によって、違ったものになると言うことです。
もともと舌足らずの、短い文章で内容を伝えるのは、
理屈ではなくて、身体知のような感性の部分が大きいでしょう。
それを補うために、視覚から入ってくる絵が大切な要素で、
僕らはその絵を介して、感性を刺激されているのです。

エリック・カールの有名な、「パパ、お月さまとって!」は、
作者が自分の娘の願いを聞いて、それを実現するお話です。
実際にエリックの娘は、大きくなって人生につまずき、
落ち込んだときに、このスケッチを見て元気が出たと言います。
同じように多くの人を元気づけたいと思い、絵本にした、
こんなエピソードから、絵本は大人のものでもあるとわかります。

本の最初には文章部分に先立って、8ページに渡る絵があり、
これを見ているだけでも、全体の内容が伝わってきます。
その変容していく物語として、時代性までが含まれ、
同じ物語に添えられる絵によって、イメージが変るのがわかる。
その解釈にはいろいろあっても、そこには明らかに時代性があり、
絵本は時代を作り、時代によって作られているのがわかるのです。

読めば読むほど想像力がかき立てられて、興味が増してくる、
本が持つ余白の力を、遺憾なく発揮する優れた本でした。
物語を紡ぐとはよく言われますが、読んでいるうちに自分が考えて、
書いてある内容以上に世界が広がる、これが読者の紡ぎでしょう。
著者も紡ぎ、読者も紡ぎ、思わぬ世界が広がっていく、
これは間違いなく優れた本で、皆さんにお勧めしたいと思います。