「オマールの壁」

イメージ 1

イスラエルに占領された、パレスチナ自治区の周囲には、
高さ8メートルもの分離壁が作られて、今日に至っています。
国際連合総会で、非難決議がされているにもかかわらず、
この壁は今日も建設が進められており、パレスチナを分断する。
この映画は、そんな分断されたパレスチナの中で暮らす、
3人の幼なじみを扱った映画であり、メッセージでもある。

主人公は真面目なパン職人のオマールで、恋人に会うために、
監視塔からの銃弾を避けながら、壁をよじ登って向こう側へ行く。
そして3人の幼なじみの一人は、ハマスのリーダーとして、
彼らに抵抗運動のノウハウを教え、秘密警察に負われている。
こんな状況の中で、ある日3人はイスラエルの監視員を狙撃し、
秘密警察の手入れによって、オマールが捉えられます。

一度つかまってしまえば、裁判もどうなるかわからない中で、
オマールはラミ捜査官の巧みな口車に乗せられ、協力者になる。
オマールはラミの裏をかいて、イスラエル軍を襲撃するつもりが、
さらにその裏をかいた秘密警察に踏み込まれ、再逮捕される。
実はオマール以外にも協力者がいて、計画は筒抜けになっており、
オマールは両方から裏切り者として、信用されなくなるのです。

疑心暗鬼の中でも、幼なじみの友情は貫かれていたのに、
ラミ捜査官の心理戦的な誘導で、オマールは騙されてしまう。
2年後にその事実に気づいたとき、オマールはある決心をして、
ラミ捜査官と会い、最後の決着を付けるという物語り。
戦争でもないままに、壁に閉ざされたパレスチナの若者が、
どのような恋をしているのか、苦しくなるような映画でした。

しかしこれは歴史の彼方の話ではなく、今も現実に続いている、
パレスチナ自治区の物語で、壁に阻まれた若者の恋の話なのです。
宗教や国家の問題で、恋愛さえも自由にならない人たちが、
今も世界中にたくさんいると言うのが、人間世界の現実でしょう。
日本では「人の恋路を邪魔するやつは、馬に蹴られて死んじまえ」
なんて言葉もあって、恋する気持ちを止まることは出来ません。

8メートルの壁は、恋する若者には軽々と乗り越えられても、
傷心の若者にとっては高すぎて、もう乗り越えることが出来ない。
絶望的な壁の高さが示すのは、やはり人間の愚かさであり、
これを目の前の現実として生きる、パレスチナ人の辛さが届く。
監督はパレスチナ人の、ハニ・アブ・アサドと言う人で、
10年前には、映画「パラダイス・ナウ」を撮った人です。