「この世界の片隅に」

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宮崎アニメとは少し違う、大人のアニメ映画でありながら、
アニメの魅力を遺憾なく発揮した、秀作映画だったと思います。
第90回キネマ旬報ベストテンにおいて、日本映画の第1位、
読者選出日本映画においても、第1位を獲得しており、
これは単に僕の好みと言うよりも、多くの人の心を揺り動かす。
いよいよ日本のアニメは、大人の心を真っ直ぐつかみ始めたようです。

映画の内容については、様々な見方があるかも知れませんが、
舞台は戦争前の広島と呉であり、原爆投下からしばらくして終わる。
戦争の影響を強く受けながら、戦争を扱った映画ではなく、
その時代を生きた一人の女性の、幸せの在り方の物語りと言えます。
決して優れた能力も無いけど、どこか暖かいものを感じさせる、
絵を描くのが好きな頼りなさげな少女が、大人になっていく物語り。

声高に反戦とか原爆がどうとか、何も言わないのに伝わってくる、
周囲に振り回され、時代に翻弄される弱い立場の人々の暮らし。
今で言えば知恵遅れか発達障害のような、自分の意思ではいきられない、
ただ言われるままに生きて、それでも個性が溢れている「すず」さん。
僕はこの「すず」さんを見ていると、切ない気持ちになってきて、
僕らが何を守ろうとしているのかが、分かるような気になるのです。

しかもこの映画は、日本全国の「この映画が見たい」と言う人たちが、
クラウドファンディングによって、3900万円の資金を集め、
こうの史代さんによる原作を、片渕須直さんが監督して映画にしている。
このコンビによる映画は2作目で、前作の「マイマイ新子と千年の魔法」は、
文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞を得て、ロングラン上映されている。
さらにすずさんの声も映像に合って、独特の世界を醸し出しているのです。

人の幸せの求め方や在り方は、いろいろあって良いと認め合う、
合理化された価値観とは一線を画す、自分の世界を持っている自由。
それを愛おしいと思う人がいて、僕ら観客はその気持ちに共感し、
いつのまにか、このすずさんの幸せを願いながら映画を見ているのです。
ハッピーエンドとも言えないけど、絶望で終わるわけではない、
ただ愛すべき女性がいて、それを取り巻く世界が魅力的なのです。

この映画がDVDになるのは、まだ一ヶ月先のことのようですが、
今回僕は劇場ではなく、家のインターネットで見ることが出来ました。
劇場公開の方も、いまだにどこかでロングラン上映されているようです。
政府や現代社会のリーダーが喜ぶ、生産性の高い人ばかりでなく、
何をやってもドジってばかりの、だけど心優しい人がいる。
僕らの世界はそんな風に、お互いが必要とされながら在るのだと思う。