「日本国憲法の真実」

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安倍政権下の日本では、かつてなく改憲論が盛んですが、
何故どのように改憲するかに関して、わからないことが多い。
現在の日本国憲法は、アメリカ人が作ったと言われますが、
果たして本当のところはどうなのか、よくわからなかったりします。
様々な政治家や評論家、そして学者も多くの発言をしていながら、
僕らは一貫した事実がわからず、振り回されている気がするのです。

そこで今回高尾栄司さんが書かれた「日本国憲法の真実」を読むと、
今まであやふやだったことが、正確な資料を基に書かれている。
日本語による文書だけでも110文献、英語の文書で63文献を調べ、
単なる憶測ではない、憲法草案時の実情を調べ上げた労作でした。
僕自身も以前に男女平等推進の活動をする中で、ベアテ・シロタを知り、
彼女こそ日本国憲法生みの親の一人だと、ずっと思っていたのです。

ところがこの本を読むと、当時のベアテ憲法草案に関わったのは、
単なる偶然以外のなにものでもなく、当事者とさえ言いがたい。
当時実際に人権草案を書いた中心人物は、ピーター・ルーストと言い、
オランダ、アムステルダム出身の、神智学者だったというのです。
当時の混乱ぶりは、映画「日本の青空」にも描かれてはいますが、
憲法の細かい条文が、どのように生まれたかはわかりませんでした。

ところが今回この本を読んでいると、神智学の思想が色濃く、
その理由がルーストであったと、かなりはっきり見えてきたのです。
日本で女性権利の親とさえ見られている、シロタ・ベアテに関しては、
その後要注意人物として監視され、世間知らずの小娘と切り捨てられる。
彼女がそのように見られた理由こそ、憲法草案の関わりだっようで、
ルーストは同じ人権委員会のリーダーであり、上司だったのです。

マッカーサーから憲法起草を指示された、ホイットニー将軍は、
民政局員から、ケーディス、ハッシー、ラウエルを運営委員とします。
そしてこの運営委員会の下に、立法権、行政権、人権、司法権の各委員会、
さらに地方行政、財政委員会、天皇・条約その他諸事項委員会を準備。
この人権委員会の中に、ルーストをリーダーとしてベアテもいたのですが、
彼女は日本語が流ちょうな以外、あまり役には立たなかったようです。

事情を知って面白いのは、この日本国憲法をどうするかに関して、
マッカーサーはワシントンの国務省と対立し、天皇制を維持したかった。
そこで国務省系の人脈とGHQの人脈が、人脈勢力争いをしていて、
最終的にはGHQが実権を握り、日本国憲法起草に動いたと言うことです。
日本人による憲法草案は、翻訳の不手際などもあって採用されず、
この民政局案がベースになったことも、この本で確かめられました。

こうして日本国憲法が作られた経緯を知るにつけて、改めて思うのは、
神智学とはどのようなものだったにせよ、これはアメリカ政府とは関係ない。
むしろ理想郷を願った人たちが考えた、一つの具体的な形だったので、
それ故に誰も否定できずに、今まで大切に守られてきたのではないかと。
そうであればなおさらのこと、理想を曲げる必要があるのかどうか、
そもそも僕らはどんな国を作ろうとするのか、改めて考えさせる本でした。