子を残して死んでいく・・・

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先日「はなちゃんのみそ汁」という映画を見ました。
悪性腫瘍とわかっていて、子どもを産む夫婦のお話で、
実話に基づいているそうですが、僕の過去にもありました。
と言っても、当時僕は結婚する気もありませんでしたし、
彼女の方も、僕に結婚は期待していなかったようで、
クリスマスを一緒に過ごした後、突然ふられてしまった。

学校を出た後、保育園の先生として働いていた女性で、
僕が知り合ったのは、マイプリントのアルバイト先でした。
もう40年近く昔の話で、今は関係する人との付き合いもなく、
誰のことか知る人も、ほとんどいなくなったお話です。
東京勝島の倉庫で、僕はアルバイトながら主任をしていた、
その倉庫に彼女が来るようになって、僕らは騒然としました。

ちょっと周囲の女性たちとは違う、独特の雰囲気があって、
容姿も美しく、身につけるもののセンスもずば抜けていたのです。
主任であることを利用して、彼女に話しかけて親しくなり、
やがてアフター・ファイブには、お酒をに飲みに行くようになる。
当時は僕もお酒は強かったし、彼女も結構飲めたので、
やがて二人だけで飲みに行くようになり、デートもしました。

そこで彼女がさりげなく打ち明けたのが、悪性腫瘍でした。
「おなかの中に腫瘍がある」と聞いて、僕は何のことかわからず、
後になって、子どもは産めないかもしれないのだと知りました。
それでも気にせず、僕は彼女と付き合い続けたのですが、
彼女には裕福な婚約者がおり、僕に秘密にしていたのです。
そしてクリスマスのデートを最後に、連絡が取れなくなった。

やがて年が明けて、彼女からあった連絡によって、
彼女が結婚したことを知らされ、僕はショックを受けました。
だけど彼女が癌であるなら、アルバイトの僕よりも、
裕福な人と結婚した方が、多くの治療を受けられるはずです。
彼女もそれをわかっていたから、僕には婚約者のことを言わず、
結婚前に思い出として、僕と付き合って分かれたのです。

それからしばらくして、彼女は入院治療が始まりました。
一時的には良くなったようですが、妊娠は難しかったようで、
何年も子どもに恵まれないまま、僕とはお酒友達となりました。
年に数回会うだけでしたが、会えば楽しいお酒になるので、
ついつい遅くまで飲んで、彼女をタクシーに乗せて分かれます。
そしてある年になって、彼女は妊娠したことを告げました。

癌の再発リスクが高い妊娠でしたが、彼女は産むことを選んで、
無事に男の子を産み、何年か順調に育てていたのです。
しかしやはり癌は再発して、彼女は闘病生活になり、
彼女は息子が小学生になる直前に、この世を去ったのです。
せめて小学校に入るまでは、見届けたいと言ってもいたのに、
願いは叶わず「この子は宝物」と言って亡くなりました。

その後はしばらく、彼女の息子と会うこともありましたが、
次第に疎遠になって、今はどんな暮らしなのかわかりません。
そして僕は今頃になって、授かった子どもが育ってくると、
幼い子を残して死んでいく悲しさが、わかる気がする。
当時の僕は彼女の気持ちが、わかっていたとは言えないで、
それが今頃になって、命の重さを感じるようになったのです。

彼女は亡くなる少し前に、一つだけ僕に願いを言いました。
当時の僕は小説を書いていたので、そのためでしょう、
「私のことを書いてね」と言っていたのを、忘れないのです。
生活が落ち着いたら書こう、とおもっていたはずなのに、
月日は過ぎて、僕はこんな年齢になってしまいました。
さてこれからでも、僕は彼女のことをかけるのだろうか。