「小さいおうち」黒木華

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特別何が新しいわけでもないし、大きななテーマでもないのに、
なんだか無性に見たくなる、興味深さが不思議に思える映画でした。
この時期に僕は、図書館とTUTAYAを合わせて一週間に13本の映画を、
しかも半分は新作を見たのですが、この一本が何とも良かった。
山田洋次監督ですから、映画としての作品の完成度も高いですし、
原作も直木賞を取った中島京子さんの作品で、物語もよくできています。

山田洋次監督ですから、彼のファミリーとも言える俳優が多いですが、
今回の作品で最も魅力的に見えたのは、黒木華さんだと思いました。
実際にこの映画で、布宮タキを演じた黒木さんはベルリン国際映画祭で、
最優秀女優に与えられる銀熊賞を取り、一躍国際女優になりました。
この女優は素顔は現代女性の顔なのですが、この映画の中では、
昭和の戦争前に、女中として暮らす様子をみごとに演じています。

僕自身も戦後の生まれですから、戦争前のサラリーマン家庭や、
そこに住み込んで暮らす女中の様子など、実際には知るはずがない。
だけど黒木華さんの布宮タキを見ていると、本物の当時の女中のようで、
演技者としては松たか子の方が上だけど、タキさんになりきっている。
これはたぶん黒木さんの才能以上に、配役のうまさというか、
監督が見た世界の表現が、いかにうまいかってことかも知れません。

実はこの映画の布宮タキさんによく似た人を、僕は知っているのですが、
その人は自然農の先輩の娘さんで、ふうちゃんと呼んでいる人です。
ふうちゃんは古風な顔立ちなのですが、その古風さも黒木華さんのように、
化粧や髪型や服のセンスによって、美しく現代風になるのでしょうか。
「小さいおうち」の布宮タキさんも、もしも現代に生まれていたら、
この映画の風貌とはまったく違う、今の時代の女性の顔立ちになるのか。

人の顔というものは、個人の固有のものではあるはずだけど、
これほど個人のものでしかないものが、時代性を強く帯びている。
松たか子さんを見ていると、何を演じても松たか子でしかないのに、
この黒木華さんは、それ以上に本質的な演技以上の変身を感じるのです。
まだ出演数が少ないから、そう感じるだけなのかも知れないけど、
これからどんな役を演じていくのか、楽しみに思える女優さんでした。