「アンコール」

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最近日本では見かけなくなった、頑固親爺とその家族ですが、
この作品ではいい感じで、その生き方が描かれていました。
イギリス映画ですから、配役も僕にはなじみが薄い人ばかりで、
先入観なしに見られたのも、描かれた世界に入りやすくて良かったです。
しかも優れた俳優が揃って出ているから、見ていても楽しかったし、
見終わって気持ちのよい、ほのぼのとしたものが残りました。

主演はテレンス・スタンプ演じる、頑固親爺のアーサーと、
妻で明るく生きる、バネッサ・レッドグレーブ演じるマリオンです。
アーサーは近所でも知られる、苦虫を潰したような老人ですが、
妻を大切にして、妻の望みであれば何でも言いなりになってしまいます。
夫婦は深く信頼して愛し合っていますが、アーサーは無口で気むずかしいので、
マリオンはそんな彼に、楽しく生きる術を伝えたいと考えるのです。

夫婦にはひとりの息子と孫娘もいるのですが、アーサーと息子は、
うまく信頼関係を作ることができないで、ずっとぎくしゃくしており、
孫娘への接し方を巡っても、イザコザを起こしてしまう危うさです。
そんな家族の中でも、マリオンは地域のコーラスグループに参加していて、
アーサーをこのコーラスグループに、参加させたいと思っていますが、
頑固な彼には、うまく人の輪に溶け込むことができないのです。

孫娘とは仲良く話せるのに、息子とはうまくコミュニケーションが取れない、
こうした関係は日本でも良くあることですが、イギリスでも同じなのでしょう。
マリオンが余命数ヶ月となり、家でその看病を続けるアーサーは、
病気の体を押してまでコーラスに参加する妻の、気持ちがどうにもわからない。
自分勝手な思い込みで、妻に静かな環境を与えようとするアーサーに、
コーラスの練習に参加させないなら、口を利かないと言うマリオンです。

いつも自分勝手な正しさを貫いて、人に謝ることもしないアーサーですが、
妻のマリオンにだけは、どうしても逆らうことができないのです。
コーラスグループの若いリーダーである、エリザベスも感性も魅力的で、
人生は楽しまなければいけない、とマリオンと一緒に歌い続けます。
そしてやがてマリオンが亡くなると、アーサーは自分の息子、
ジェームスとの関係を求めますが、独断的なのでうまく行きません。

最後に残されたコーラスのコンクールで、自分の思いを歌詞に込めて歌い、
自ら参加することで心を開いて、マリオンへの思いと共に愛することを賛歌する。
もともとお互いに求め合っている息子とも、誤解がとけて心が通じるし、
それこそマリオンが望んだことだと、素直に共感もできるのです。
現実には難しいシチュエーションもありますが、人生を楽しむことを讃え、
おおらかな心を求めた、ヒューマンコメディの王道を行く映画でした。