「少年と自転車」

イメージ 1
 
カンヌ映画祭で、2度のパルムドール大賞を受賞している、
ジャン・ピエールとリュック・ダルデンヌ兄弟監督による作品で、
2011年のカンヌ映画祭グランプリを取った映画「少年と自転車」です。
この兄弟の作品は、いつも派手な仕掛けは何もないのですが、
子どもの視点や、子を持った親の視点がとてもリアルに描かれて、
剥き出しの人間性の中に、何か失ってはいけない輝きが見えるのです。

今回の「少年と自転車」は、日本で児童養護施設に預けられた子どもが、
迎えに来ると約束した父親を信じ、ずっと屋根に上って待っていたのに、
来ないと知って屋根に上るのをやめ、誰も信じなくなった話を受けたものです。
この深い人間不信から、少年はどうやって救われることが出来るのか?
監督はその一つの答えを、この映画に込めたのだろうと思わせる、
うまく説明できない人間の信頼を、実に見事に描いていました。

施設に預けられた少年シリルは、何度も父親に電話をするのですが、
父親はすでにアパートを引き払い、引っ越し先で新しい生活を始めていて、
シリルは親に捨てられており、彼はそれを認めたくなかったのです。
学校へ行く振りをして、父親のいなくなったアパートへ行くのですが、
管理人は父親がいなくなったことを告げ、空になった部屋を見せるのです。
納得できない彼が逃げるときに、たまたましがみついた女性サマンサが、
彼が探している自転車を見つけ、彼の施設に届けてくれます。

シリルはとっさに、サマンサに週末の里親になってほしいと頼み、
サマンサもこれを引き受けて、2人は週末に会うようになるのですが、
シリルの狙いは、サマンサに父親を捜し出して連れて行ってもらうことでした。
そしてある日、彼はサマンサに連れられて父親に会いに行くことになります。
ところが父親は、今の生活を守るためにシリルに会うことを拒み、
もう二度と会いに来ないように、シリルとサマンサに伝えるのです。
彼は絶望のうちに、車の中で突発的に頭を窓ガラスに打ちつけ続けます。

そんなシリルを、サマンサは自分が付き合っている彼氏よりも大切に思い、
彼が町の不良に唆されて、強盗の犯罪を犯すまでになったときには、
真剣に泣いて、彼と一緒に警察に出頭することになるのです。
事件の被害者に損害賠償をして和解し、彼を引き取って帰りますが、
そんなサマンサに、シリルは「一緒に暮らしてほしい」と頼むのです。
彼女はその申し出を受け入れ、2人は共に暮らし始めますが・・・

理屈ではなく説明ではなく、シリルの心の動きが手に取るようにわかり、
むしろサマンサがなぜここまでシリルに親切にするのか、それさえも、
理屈ではなく説明でもなく、見終わって納得してしまう自分がいたのです。
人は何を求めて生きているのか、その何かが通じ合った時に訪れた、
穏やかな自転車のシーンがあって、最後に訪れた悲しい小事件さえも、
信頼できる人を得たシリルには、同じ日常のエピソードになったのです。

人間とは何かを考えるときに、カンヌ映画祭の受賞作品は、
いつも思わぬシンプルさで、それを剥き出しにしてくれます。