「東京家族」

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今年1月に姫が生まれてから、映画館には行けなくなりました。
誰かに姫を預かってもらえば行けますが、預かってもらう人もいないし、
妻は姫を母乳だけで育てたいと言っているので、そうすると必然的に、
姫を誰かに預けるわけにはいかず、僕だけが映画館に行くこともないのです。
したがって新作映画は何も見ていませんが、今は半年もすると、
レンタルビデオで見られるので、家のホームシアターで見られます。

そんな映画の1本で、妻がなにげなく借りたのが「東京家族」でした。
東京家族」と言えば、どうしても小津安二郎監督作品を思い出してしまい、
リニューアルがあまり好きではない僕は、期待しないで見始めました。
だけどリアルな東京の家族が丁寧に描かれて、役者も役者の個性ではなく、
見事に役を演じているし、そもそも出演者の顔ぶれが半端ではない。
あとでこの作品が山田洋次監督による、彼の50周年記念映画だと知って、
なるほど納得の内容を、何の予備知識もなく見せていただいたのです。

それだけ純粋に、映画というものを楽しませてもらったのですが、
ともかく細かいディテールが丁寧で、演出もカットも何一つ無駄がない。
それは小津監督のときもそうだったのでしょうが、小津作品を見たのは昔で、
まだ若いときに、しかも名画座の特集か何かのときでしたから、
そこまで感じ取ることも出来ないまま、ただ名作と言うだけで見たのです。
だけど今回は何の先入観もなく見始めたまま、最後は涙が止まらなくて、
映画の持つ力を、あらためて思い出させてくれた作品だったのです。

山田洋次監督のことは、今更僕がどうこう書いたって仕方ありませんが、
「幸せの黄色いハンカチ」と「男はつらいよ」は好きだったとしても、
「息子」や「学校」シリーズは、正直あまり好きではなかったことも確かです。
だけどこの映画では、日本の優れた俳優が顔を揃えていながら、
いや、優れた俳優が顔を揃えたからこそ出来たことなのでしょうが、
いわゆる俳優の個性ではなく、役の個性がしっかりと当たり前にあって、
まるで物語がドキュメンタリーのように、引き込まれていきました。

妻夫木が演じた昌次を巡って見せる、父の視線や母の視線は暖かく、
姉や兄の視線も典型的でありながら、兄姉の醒めた感覚がよく伝わってくる。
そして急死する前の母を喜ばせた、蒼井優の紀子も過不足が無くちょうどいい。
3.11の事件もさりげなく取り入れながら、定職のない若い二人が、
仲良く暮らす様子を見て、妻の優しさを思い出す橋爪の周吉も味わい深い。
まるで本当の家族なんじゃないかと思わせる、自然な感じだったのです。

さてこの映画を見終わった今、もう一度小津監督の「東京物語」を、
見たいような見たくないような、いややっぱり見てみたいと思うのです。
優れた映画との出会いには、出会う側の器量も必要なんだと感じたし、
すでに人生の多くを過ぎた今、自分は何か変わったのかどうか、
小津監督の「東京物語」を見直すことで、人生を顧みたい気がするのです。