「歌えマチグァー」

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沖縄の映画なら、何でも見ているのですが、
今回の作品は、やっぱり沖縄らしい一本でした。
戦後すぐにつくられた、那覇市安里の栄町市場商店街は、
わずか4千坪に、120もの店がひしめく市場ですが、
昭和30年代に最盛期を迎えたあとは、衰退していきます。
よその商店街と同じ、シャッターを下ろした店が増え、
町の再開発の話しも出て、消えていきそうな様相でした。

ところが市場の人たちは、人眼関係がディープな暮らしで、
こうした暮らし方を、無くしたくないとの思いが強い。
そこでなんとか町に賑わいを、取り戻したいと思い、
音楽に託して、新しい賑わいをつくることを考えたのです。
そして市場育ちの3人のおばぁが、ラッパーズを組み、
孫のような若い娘に指導を受けて、練習に精を出す、
市場を元気にする活動を撮った、ドキュメンタリー映画です。

映画の監督は、テレビ等で報道番組を制作していた人で、
沖縄に赴任した際に、沖縄の風土と人々に惚れ込み、
そのまま沖縄に住み着いたと言う、新田義貴さんです。
日本中の多くの場所で、なつかしい路地の商店街は無くなり、
経済性を求めたスーパーや、車中心の文化が広まって、
町中での人々の繋がりが、希薄になってきた現代において、
それをただ受け入れるのではなく、何かやりたいと思った人々。

そこでキーワードにしたのが、音楽だったのですが、
ただ懐かしい沖縄民謡を歌うのではなく、新しい流れの中で、
おばぁたちがラッパーに挑戦するのが、なんとも面白いのです。
映画のカメラは、商店街の日常をつぶさに撮りながら、
そこに暮らす人たちが、音楽と繋がっていることを描き、
CD制作をしていく様子を、楽しげに伝えてくれます。
そして町に賑わいが戻り、シャッターの店もなくなります。

まちづくりと言えば、大型ショッピングセンターの誘致や、
雇用のための工場や会社を誘致する、経済政策が中心ですが、
住んでいる人は、今の町が住みやすくなって欲しいのです。
車が走り回って、一年中忙しいようなまちではなく、
ある程度便利であれば、ゆっくり静かに暮らしていたい。
高速で車が行き交う活気ではなく、商店街に人々が集まって、
日常会話を楽しめる、そんな暮らしを望んでいるのがわかります。

これは沖縄の、ひめゆりの悲劇の後を受けた話でもありますが、
僕らは日常の中で、何が楽しいのかを忘れたかのように、
ひたすら経済成長や、収入アップを望んで暮らしていながら、
何かおかしいと感じて、新しい生き方を模索しているのでしょう。
そんな試みの一つとして、おばぁはただの“おばぁ”ではない、
僕らの内にある“望み”を実現している、先駆者なのです。
それぞれの町に、それぞれの賑わいがあるはずだと思わされました。