「光の海」

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2012年に、「坂道のアポロン」で、
第57回小学館漫画賞を受賞した、児玉ユキさん。
僕が好きになるコミックの例に漏れず、絵がきれいで、
その絵に惹かれて読んでいると、人魚ってものが、
なんだか本当にいるような、違和感の無さを感じます。

一こま一こまがバランスよく、それぞれ絵になっていて、
しっかりと語りかけるものを、持っているのですが、
それはとてもさりげなく、ストーリーを妨げていない。
だから気が付くと、物語の世界に入り込んでいて、
作中人物に、自分の心を重ね合わせてしまうのです。

よく考えると、ありえない人魚の話なのですが、
よくよく考えると、心象世界としてはとてもリアルだし、
登場人物を通して描かれた世界は、読者でもありそうです。
日常の中で抱く心が、いつのまにか色あせるとき、
日常を抜け出してでも、守りたくなる何かを感じる、
その何かが、人魚との遣り取りを通して描かれている。

あるいは人魚こそが、正直な自分の分身であって、
人魚に出会う人は、自分の本心に出会う人なのでしょう。
ときにはさみしく、ときには切ない気持ちを抱きながらも、
それを乗り越える優しさが、全体に行き渡っている。
だから僕らは、この作品の中で人魚に出会いながらも、
特別奇異な世界とは思わないで、物語を読むのです。

そして同じように、ありえなさそうでありそうな、
「ROVER」に関しては、僕はこの作品に一番繋がりを感じて、
久しぶりに想像の世界が広がり、夢見心地になりました。
世の中の常識に縛られずに、悠々と生きる女性を描き、
彼女を心配する心優しい女性こそ、心配になる。

世界の在り方を、非常識を持ち込むことでリアルに描く、
こうした表現方法って、僕はとても好きなんです。
現実社会こそ、理不尽でどうしようもない世界だと、
いくら思っていても、どうにも出来ないのであればこそ、
そんなものを蹴飛ばして、人魚や顕が魅力的なのです。
 
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