「乙嫁語り」

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先日9月の“えんかふぇ”食事会に参加して、紹介してもらった本が、
森薫さんの新作で、現在第4巻まで出ている「乙嫁語り」と言うものでした。
僕は森薫さんを知らなかったのですが、パラパラと読んでみると面白くて、
そこにあった1、2巻を、一気に全部読み通してしまいました。
元々は角川グループの隔月刊漫画誌、「Fellows!」に掲載された作品で、
2008年に発表されたようですが、僕は今まで見たことがないものでした。

今や日本の漫画は、世界的にもクール・ジャパンの代表ですから、
それは相当の数も出ており、僕なんかが知らない作品がたくさんあります。
大抵は知らなくてもどうって事ないし、特に知りたくもないのですが、
乙嫁語り」を見ていると、まるで文芸作品を読むように琴線に触れるので、
これを知らずにいるのは、もったいない気がしてしまうのです。
そう言えば最近は、いつまでも心に残るような小説はなくなってしまい、
その代わりに、漫画の名作が広く読まれるようになっているのでしょうか。

森薫さんの作品は、すでに12年前から注目されていたようですが、
デビュー作となった「エマ」は、テレビアニメにもなったほか、
2005年には、文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞しています。
その理由は、忠実な歴史考証で絵と作品を描いているとか言うもので、
「エマ」では古い英国のメイドを忠実に描写したのが、受賞の理由だとか。
同じように「乙嫁語り」では、19世紀後半の中央アジア遊牧民族を、
丁寧に描いた素材の中で、12歳の男の子に20歳の美しい嫁が来る話です。

ある種の憧れというか、美しい姉さん女房をもらった男の子の話ですが、
この嫁いできた女性のことを、作者自身がとても思い入れがあるようです。
「明日死んでも悔いのないキャラ作り」をしたと、言っているようで、
「弓が上手」「姉さん女房」「鳥や兎がさばける」「心が天然」「芯が強い」
と言ったキャラの要素は、『乙女』『お嬢様』性格でまとめられています。
いわば自分が思う理想の女性像を、作品に凝縮しているようで、
案外こうしたキャラは、現代女性の理想であるのかも知れません。

いわゆるコミックや漫画と言うよりは、グラフィックノベルの分類で、
次々に展開する物語は、イラストによる小説を読んでいる味わいがあります。
主人公のアミルが必ずしも中心人物ではなく、登場する多くの人たちが、
それぞれの性格や事情を持って、大平原の中で悠然と時間を過ごしている、
この広大な大地と時間の流れの中で読む時に、乙嫁語りは味わいが深くなる。
大きな時代の流れの中で、ちょっとしたことに心を動かす人々の様子が、
なんともいとおしく、人間の理性や情を愛さずにはいられなくなるのです。

まだ第4巻が出たばかりですし、物語は壮大な展開を見せているので、
これから何年も掛けて、中央アジア遊牧民の生活が描かれていくでしょう。
戦争の陰が迫っている時代の中で、人々は恋をしたり取引をしたり、
そんな中でアミルの嫁いだ一族の動向や、夫の将来も気になるところです。
こうした関心を、まるでパノラマ映画を見るように細部まで描かれた作品で、
我がことのように見るのは、人生の楽しみの一つだろうと思うのです。