「瓦礫の中の幸福論」

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世間ではいわゆる“瓦礫問題”が盛んに言われていますが、
この問題設定自体が、政府とマスコミによって作られ、
本来の重要な問題を逸らして、実のない議論が続けられています。
そんな時期に、僕が比較的好きで気軽に読める渡辺淳一さんが、
「瓦礫の中の幸福論」と言う本を出されたので、読んでみました。

読んでみたら、現在世間を騒がせている“瓦礫”とは違って、
瓦礫そのものの話でさえない、戦後の日本を記録的に描いた本で、
僕は3.11の瓦礫のことは忘れて、日本の戦後を読んでいました。
それは一人の少年が見た戦後であり、価値観が大転換して、
大人たちは絶望していたかも知れませんが、子どもたちには、
新たな世界が開かれる、未知の希望に満ちたものだったのです。

その意味で、福島原発の絶望的な未来状況とはまったく違って、
今を生き延びさえすれば、幸せになれそうな予感があったでしょう。
渡辺さんはその時代の様子を、自分が見た世界を通して、
他人事の批評ではなく、自らの実体験として描いて見せます。
特別凄いことが書いてあるわけではないし、文書も平易だけど、
読んでいると心に触れる内容が多く、次々に読み続けてしまいます。

僕は渡辺さんよりは、だいぶん下の年齢ではありますが、
それでも幼い記憶の中には、戦後の片鱗が微かにある気がする。
白衣の傷痍軍人など、どこかで実際に見たような気がするし、
朝鮮人に対する差別的な扱いが、確かにあったような記憶がある。
だけどそれは、米軍基地の周辺で盛んだった商売と同じように、
あとから何かの記憶を、繋ぎ合わせたものかも知れない。

むしろ高校生の頃の異性への思いや、その後の女性観、
さらには何度も訪れる、人生を見直したくなる瞬間の連続に、
一人の若い人間が、いかに成長するかが描かれた本なのでしょう。
まるで久しぶりに会った、古い友人と話し込んで聞いたような、
リアルな体験談が、なんだか暖かく感じる読後でした。
 
 
渡辺淳一さんの「瓦礫の中の幸福論」は、↓こちらから購入できます。
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