「オーストラリア」

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今日は久しぶりに、笑って楽しい映画を観に行くつもりでしたが、
昨夜の「世界不思議発見」を見て、急遽「オーストラリア」に変えました。
20代の頃に少し憧れていながら行かなかった大陸が見たくなったし、
日本が戦争を仕掛けた頃のオーストラリアを、知りたい気持ちになったのです。
その結果また一本、とても素晴らしい映画に巡り会うことになりました。

まず最初の視点が、オーストラリア北部原住民族アボリジニの男の子(ナラ)で、
お爺ちゃんと共にウオークアラウンドに出る前の数年、という設定がいいですね。
彼は、母親を雇っていた英国人牧場主が槍に突き刺されて殺されるのを見てしまう。
そこへやって来たのが牧場主の妻、ニコール・キッドマン演じるサラなのです。
当時のオーストラリアでは、白人と黒人の間には明確な人種差別があって、
さらにアボリジニの子は、キリスト教化による同化政策を余儀なくされていた。
そんな中で男勝りのサラは、殺された主人の意志を継いで牧場を経営する決心をし、
人種差別とは無縁の生活をしている牛追い人、ドローヴァーに助けを求めます。

日本軍がオーストラリアを空襲する直前の、ダーウインと周囲の牧場を舞台に、
失われ行くアボリジニの視点を活かしながら、単なる好奇に落ちることなく、
大陸が持つ広大な風景と人間の営みを、見事に美しく調和させて見せてくれる。
ニコール・キッドマンは美しいし、カウボーイ役ヒュー・ジャクソンはカッコイイ!
壮大な風景をバックにして、アボリジニの文化もうまく控えめに登場しますが、
お爺ちゃん役のデヴィッド・ガルビリルは、実際にアボリジニ戦士だった人であり、
30年以上前に「美しい冒険旅行」で映画デビューしている、名俳優でもある。
そしてナラを演じるブランドン・ウォルターズも、生粋のアボリジニなのです。

原案から監督、脚本、政策を手掛けたバズ・ラーマンも生粋のオーストラリア人で、
衣装デザインも撮影監督も、主要なスタッフはほとんどオーストラリア人が占める、
いわばこの映画は、オーストラリア映画界の力を結集した作品と言えるでしょう。
登場するシーンのいくつかは、それを見るためのドキュメンタリーでもいいほど、
見たこともないような素晴らしい風景として、画面一杯に広がって圧巻となります。
かつて人種差別されていた黒人や原住民に対する、解放の賛歌を潜ませながら、
激動した時代を広大なスケールで描いたこの作品は、懐かしいほど映画の王道です。
これが本国で空前のヒットを続けているのは、当然のことと言えるでしょう。

作品のストーリーは見てのお楽しみなので、ここには書くつもりはありませんが、
アボリジニの男の子が成人するための儀式として、ウオークアラウンドに出る、
それを理解しているカウボーイと、異文化のイギリスから来て理解できないサラが、
激動を経て分かり合い、共に生きていこうとする姿は、オーストラリアそのものです。
物語が大切だというナラは、2時間半を掛けて観るものにその意味を伝えてくる。
この映画は、オーストラリア映画史上に長く記憶される映画になるでしょう。