「キッチン・ストーリー」

イメージ 1

めずらしくノルウエー映画で、2003年の作品です。
以前からレンタルDVDの棚で、気になっていたのですが、
一人暮らしの爺さんの台所で、男の動きを調査する中年男の話なんて、
こんなのが面白いとは思えなくて、気にしながらも見ていませんでした。
でもこのところ、男って何だろうと考える機会が多かったので、
ほとんど男しか出てこない、台所が中心の話って何なのか?
やっぱり気になって、ようやく手にとって借りて観た次第です。

さて、この時も半額レンタルで、何本も借りたDVDの中から、
この作品を選んで紹介するのは、やっぱり惹かれるものがあったのです。
まず面白かったのは、デンマークスウェーデンの関係でしょう。
日本で暮らしていると、デンマークスウェーデンも一括りで、
同じ北欧の国々として、ほとんど違いがわからない感覚なのですが、
当事者達は、お互いに相手国を強く意識してライバル心があるようです。
付録に付いていた、ベント・ハーメル監督のインタビューでも、
スエーデン人とデンマーク人は、お互いに相手のことを笑いものにする!
と言っていましたし、映画の話もこの感覚を知らないと理解できない。

工業活動が活発なスウェーデンで、台所用品の研究グループが、
一人暮らしの男性の、台所での行動を研究しようとして話が始まる。
スウェーデン人の研究員が、デンマーク人の被験者の家に行くのですが、
デンマークでは左側通行の車が、スウェーデンでは右側通行に変わる!
これが見事に象徴的で、隣り合う国なのに文化が違うことを暗示します。
そして辿り着いたデンマーク人の、一人暮らしの老人の家で、
スウェーデン人の研究員は、ただその動きを記録する活動を続けます。
ところがやがて、二人は禁じられていた会話を交わすようになる。

観察するものと観察されるものが、なにげなく入れ替わったり、
戦争に参加した国と参加しなかった国の人の、こだわりの違いなど、
会話をすれば、少しずつお互いの心に触れるようになってくる。
1950年代を舞台にしている所為もあるでしょうが、物は少なく、
食べ物も質素で、こんな暮らしを調査して売るものがあるとも思えない。
それ自体が滑稽なのですが、現代の台所と照らし合わせて考えれば、
今の時代が、いかに多くの不要な物で溢れているかを気付かせてくれる。
この映画は50年代を舞台にしたことで、豊かさとは何かも問うており、
人と人の心の繋がりが、いかに人を豊かにするかも見せてくれます。

食文化や生活習慣の違いを超えて、一服のタバコや一杯のコーヒーが、
たったそれだけで繋がることのできる、人の心の不思議さが伝わる。
ほとんど何事も起こらない、いや、何事も起こらないように、
いつのまにか、お互いが相手のことを気遣うようになっている関係。
恋も冒険もないのに、見終わる頃には、何か温かいものを感じる。
生きるって何か? 家族って何か? 国境文化って何なのか?
人はあらゆる既成の価値観を超えて、手を取り合える存在なのだと、
あらためて思わされる、これ以上ないくらい質素な映画なのでした!


ベント・ハーメル監督の「キッチン・ストーリー」DVDは、(↓)こちら。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B0001X9D7C?ie=UTF8&tag=isobehon-22