「おくりびと」

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人間生活に大切な冠婚葬祭の中で、
葬を中心に描いた作品は比較的少ないと思いますが、
それはたぶん、忌み嫌われる部分があるからでしょう。
この「おくりびと」にも、それは描かれていて、
本木が演じる小林大悟は、間違って納棺師になっていく。
それを徹底的に厭がる妻や友人が描かれている。
だけど大悟が出会った納棺師の佐々木は、
不思議な魅力を湛えていて、惹かれていくんですねえ。

今の時代は、死を生活から遠ざけていると言われますが、
それでも人は死んで、その時に人生の何だったかがわかる。
その人が何を大切に生きていたかがわかるわけです。
山崎努演じる納棺師の佐々木は、葬儀でそれを見せてくれる。
亡くなった人が生前どのような人であったかを考えて、
その人に相応しい死化粧を施す達人なのです。
大切なのは、その技術以前に、心なのだとわかるのですが、
そうしたことを、言葉で説明したりもしません。

あくまでも、個々の登場人物がもつ物語を通して、
それぞれの生き方の中に、メッセージが込められている。
僕らは観客として、数少ない登場人物と向き合いながら、
その人を類型的でない個々の人間として、受け止められます。
それぞれの観客が持つ、実際の生活が引き合わされても、
けっして色あせない、人生の数少ないポイントが、
説明ではなく、印象として映像に写し出されるのです。
その映像技術も演出も確かで、無駄がありません。

映画の物語自体は、それほどドラマチックではないのに、
いくつもの人生が、死に際にそれぞれの愛を示して、
そこに立ち会う納棺師の心が、深く伝わってくるのです。
小林の妻である、広末が演じる美香のあたりまえな感覚も、
不思議と広い心に感じられたのは、舞台設定の所為か、
渡り鳥が飛ぶ、広々とした田園風景は気持ちがいいですね!
吉行和子余貴美子笹野高史といった脇役もいい。
何一つ無駄がないのに、息苦しくもないのです。

監督の滝田洋二郎さんは、富山県生まれなんですね。
時代を先取りした「コミック雑誌なんかいらない!」ほか、
「僕らはみんな生きている」など、僕の大好きな作品があって、
去年公開された「バッテリー」は、映画独特の味がありました。
この監督にして、この名作映画は生まれたのでしょう。
けっこう長い映画なのに、時間をまったく感じさせないし、
途中でなんど泣いたかわからないくらい、涙を流しました。
世界でグランプリを取るに相応しい日本映画だったと思います!