「不良少女」

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中年男性が主人公の、遊び心がたっぷりのシリーズ小説に、
樋口有介が書いている、柚木草平を主人公にしたものがあります。
その文庫本第七弾で、未収録だった短中編を集めたのがこれ。
そのために、デビューから間もない時期に書かれた作品と、
熟練してから書かれた作品が、混在しているのが興味深い本です。

作者本人が、「文庫版あとがき」で書いているように、
これに収められた4作品のうち、初期の「秋の手紙」と「薔薇虫」は、
いわゆるハードボイルド調の文体で、内容もトリッキーな感じ。
それに比べると、「不良少女」と「スペインの海」は平易な文体で、
登場人物そのものが興味深い内容に変わってきている気がします。

彼は「文体というのは小説の生命、大げさにいえばその作家の生命」
とまで言っている通り、小説の文体は大きな意味を持っています。
内容がいくら立派でも、文体によって表現される「何か」がないと、
それは人の心を惹きつける小説とは、なり得ないわけですから、
小説家はそれを自覚しながら、自分の文体を構築していきます。

一度多くのファンを魅了した文体は、作家の財産でもあって、
それを変えることは、特に同じ主人公のシリーズで変えることは、
それなりの勇気と決断を必要としたのではないか、と思います。
実際に意識して比べると、デビュー当時の作品にある気取りが消え、
新しい文体では、作者の狙い通りに世界の広がりがある気がする。

樋口有介の作品としては、短編ではもの足りないのだけど、
この作品集は、デビュー当時からその後にかけての変化が見られる、
その点で興味深い、貴重な本になっていると言えるでしょう。
そんなことを考えながら読めば、また違った味わいも出てきます。
もちろん一度読み始めれば、どちらも飽きることなく読めますよ!

収録4作品の中では、本の表題となった「不良少女」が好きです。
あり得ない話なのに、不思議と想像力が広がる面白さがあって、
孤独な心と心が、どこかで通じ合うやさしさも感じるのです。
この小説は、ちょうど2001年の9月に発表されているので、
その後の新しい時代に現れるはずの、新しい少女像も気になります。


樋口有介の「不良少女」情報は、(↓)こちらから。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4488459099?ie=UTF8&tag=isobehon-22