「めがね」

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沖縄の島々を舞台にした映画は、
「神々の深き欲望」以来ほとんど見ています。
たぶん僕は、珊瑚礁の海の光景が好きなのです。
その中でも今回見た「めがね」はお気に入りです。

僕が沖縄の離島に抱いている時間感覚がそのままで、
美しい海が近くにあって、人にはめったに出会わない。
こうした状況が日常的にあって、始めて感じられる、
ある種の全肯定の感覚が好きなのかもしれません。

小林聡美さん演じるタエコが、ふらりと島にやってきて、
誰も客のいない、ひっそりとした宿に逗留する。
このタエコそのものが、何者かよくわからないですね。
だけどしっかり今の日本の価値観を持っている常識人で、
ひとりで宿をやっているユージが非常識に見える。

ところが、そこに出入りしているサクラはもっと不思議で、
春にだけ島にやって来て、かき氷を作って食べさせている。
お金も取らずに誰にでも食べさせる、このかき氷が絶妙で、
島の人たちは、のんびりやってきては、食べていく。
受け取るのはおカネではなくて、それぞれの気持ちだけ。

そんなサクラに惹かれている人の一人、ハルナだけは、
地元の高校で生物を教えている教員だと紹介される。
つまり他の出演者はみんな、何者かよくわからないのです。
それでちっともかまわないし、むしろその方が気持ちいい。

何もはっきりしないし、よくわからないまま時間が過ぎて、
だけど何か、心地よいものが少しずつ伝わってくるのです。
これって、僕が沖縄の離島に感じているものそのものです。
今ではすっかり観光都市になってしまった石垣島も、
昔はこんな感じで、時間がゆっくり流れていました。

そう言えばこの映画は、時間の感覚も麻痺させてくれて、
作品の上映時間が2時間もあったなんて思えません。
その間には、物語の展開らしいものもほとんどなくて、
最初にタエコが、この非常識な人たちの宿から抜け出して、
他の宿に行くところが、唯一の物語らしい展開でしょうか。

タエコを追いかけて、島まで来たヨモギくんだって、
彼が何者か、何故来たのか、まったく何も説明されない。
だけどそんなことはどうでもいいことなんですね。
心を込めて作られるサクラの金時のかき氷を通して、
そうしたどうでもいいことが振り落とされていくんです。

ひとつ、僕にはとても印象的なシーンが何度かあって、
それはお日様に照らされながら、ぼんやりしている時に、
フッと風が吹いてきて、いかにも何かの予兆を感じさせる。
これって、沖縄の離島で味わう至福の時なんですよ♪

これでまた、沖縄映画の宝物が一つ増えた感じです。
ありがとう、脚本・監督の荻上直子さん!(写真左端)


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