「脳と仮想」

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評判通りに面白く、示唆に富んだ本でした。
僕はそもそも茂木健一郎さんを知らなくて、
最近NHKの番組で拝見するようになってから、
ようやく彼の「クオリア」に関心を持った程度でした。
そこへ代表作の「脳と仮想」が文庫本になったのを機に、
ようやく手にとって読む機会を得た本でした。

読み始めてまもなく、まず小林秀雄さんの話があって、
池田晶子さんと同じ深い繋がりがあることに驚きました。
あらゆるものを科学的に数量化して合理化する、
そうした物質文明に対して、そうではない世界を持ち出し、
閉鎖的な科学世界では説明できない直感や感性の世界を、
感受性や受容と生成の観点から見つめなおしていく。
ここにもそうした信頼できる人がいたと知ったわけです。

クオリアが何であるかは、簡単な説明だけでもすぐわかる。
しかしこれを説明し尽くそうとすれば、実に困難で、
そうした非合理性こそが正体の一面であるからこそ、
さまざまな違う側面から言及することで姿が見えてくる。
そしてこの、クオリアを知ることが人生を知ることになる。
全体は九章で構成されているけど、それぞれの章には、
のっぴきならない人間的な問題が込められている。

特に僕は「仮想の切実さ」「安全基地としての現実」など、
読み進むうちに様々な思いが次々にあふれ出てきて、
結局この小さな文庫本を読み終えるのに二週間掛かった。
それは内容が難しいのではなく、あまりにも刺激的で、
その一つ一つの刺激に照らし合わせたくなる自分がいた、
そうした驚きの連続だったからだと言えるでしょう。
これほど示唆に富む本は、池田晶子さん以来なのです。

さらに進めて「他者という仮想」「思い出せない記憶」など、
これはもう必然的に池田さんと同じ哲学の世界であり、
脳科学者である茂木さんが到達した次元の高さを感じます。
一つのエピソードとして書かれていた三木成夫さんの講演。
こうした不思議な記憶はたぶん誰にでもあるのでしょうが、
それを言葉で表現することの難しさの向こうに突き抜けて、
言葉こそ「思い出せない記憶」の蓄積だとおっしゃる。

読み終えて僕は、この本が一本の巨木に思われたと同時に、
人間の叡智の可能性にあらためて感動し、さらには、
これらの人々に大いなる刺激を与えた小林秀雄さんに、
あらためて深く、強い関心を持つようになりました。
こんな所においてさえすべては繋がっているのであって、
この本はそれを、強烈な刺激を持って見せてくれたのです。

amazonでの購入を紹介しておきますが、これ一冊では安すぎて、
送料がかかるので、他の本と一緒に注文したほうがいいですね!
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4101299528?ie=UTF8&tag=isobehon-22