国民投票法案の問題点

国民投票法案の中央公聴会が始まり、いよいよ5月の法案成立をメドに、
政府与党の本格的な動きが加速しようとしているようです。
この憲法改定手続きを定める国民投票法案に関しては、すでに各方面から、
様々な問題点が取り上げられていますので、要点をまとめてみました。

主に参考にしたのは、公共哲学フォーラム小林正弥 千葉大教授のものです。
小林さんが雑誌掲載用に書かれた文書の中から、要点をMLに流されたので、
それを整理してここに掲載させていただきます。
(以下、内容をわかりやすくするために、多少整理しての転載です)
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現在の国民投票手続き法案は、主権者の理性的な意思行使を妨げて改憲
強行しようとする政治的法案であるが故に、反対せざるを得ない。
例えば、自民党案(以下、昨年12月の修正案による)では、

(1)《周知期間の問題》ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
周知期間が発議から「60日以降180日以内」しかなく、僅か3ヶ月で
国民投票が行われることが可能である。

(2)《投票率の問題》ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最低投票率や有効投票率が定められていないから、周知期間が短く国民が
十分に考える時間がなくて投票に行く人が少なくとも改定は成立してしまう。

(3)《無効票の問題》ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
投票総数を「賛成票+反対票」と規定しているから、白票など無効票が投票総
数に入らず、“改定には投票総数の過半数が必要”という規定は実際には有効
投票の過半数という意味となってしまい、改定派に極めて有利な規定である。
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 そもそもは、硬性憲法の趣旨から言えば、「改憲には有権者数の過半数(50
%)が必要」という規定でも不思議ではない。これに対し、例えば、周知期間の
短さなどのために国民投票の重要性が浸透せず、通常の選挙の場合と同じように、
60%が投票し6%が無効投票だったとしよう。そうすると、僅か27%の賛成
改憲が成立してしまう。

(4)《公務員活動の問題》ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
周知期間の間、公務員や教育者に対して地位を利用する運動を(訓示規定なが
ら)禁止し、(組合などを含めて)組織にする多数の投票者に対する買収と
利害誘導を禁止する。
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 前者は訓示規定ながら服務規程違反による懲戒処分の危険を孕むし、後者は、
構成要件が曖昧だから利害誘導という名目で罰則適用が可能になりかねず、
現行憲法を擁護すると思われるグループの運動に対して萎縮効果を持つ。

(5)《広報活動の問題》ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
政党などの無料意見放送・意見広告を定める広報協議会は、各会派の所属議員
数の比率によって構成される。法曹団体など政党以外の団体には、無料放送・
無料広告が認められず、メディアを通じた有料広告は自由。
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発議がなされている段階では、3分の2以上が改憲派で占められる。そうすると、
修正案では賛成派・反対派に同等の無料放送・広告を認めることになったものの、
例えば法曹団体など政党以外の団体には無料放送・無料広告が認められず、
メディアを通じた有料広告は自由だから、資金的に圧倒的に豊富な資本家団体や
保守的団体に有利であり、改憲派は徹底した改憲キャンペーンをメディアを使っ
て自由に行うことができる。

(6)《一括投票の問題》ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
発議の内容自体も、「内容において関連する事項ごとに区分して発議」すること
になっているが、規定が漠然としていて、別々に投票すべきものが一括される
危険性がなお残る。個別に投票すると整合性を欠く場合を除き、条文ごと、項目
ごとに投票するように明確に定めるべきである。


 以上を要するに、この手続き法案は、
◎発議後は国民に憲法改定について熟考する機会を与えずに、
憲法改定反対派を罰則などで萎縮させて反対運動を行い難くさせ、
◎改定派には有利な形で無料放送・無料広告を行わせる危険性が残り、
◎豊富な資金力によって有料キャンペーンを自由に行うことを可能にする。
◎投票者が少なくとも改定を可能にし、有権者過半数はおろか、
◎投票総数の過半数賛成がなくとも、有効投票の過半数賛成で改定を成立させる。

 憲法改定は、主権者たる国民にとって最も重要な主権行使の機会であり、従っ
て、もっとも徹底した十分な理性的熟議が保証されなければならない。しかるに
この法案では、周知期間が短いから、理性的議論は行われず、しかも無料・有料
双方の手段でメディアによる改定促進キャンペーンを大々的に行うことを可能に
するから、非理性的かつ扇動的な手法で改定を強引に実現することを可能にする。

 もし国民投票法案を実現するなら、現行案とは逆に、硬性憲法にふさわしく周
知期間を1年以上とって、国民が十分に徹底した理性的議論を行うことを可能に
する必要があろう。いわば「熟議国民投票」を可能にする公正な「熟議国民投票
法案」を作る必要がある。現在のような不公正な改憲促進国民投票法案を作ろう
としているところに、安倍政権の危険な非理性的性格が如実に現れている。

 このような法案が成立すれば、肝心の国民投票という決戦の時の前に、その戦
いは改定派に著しく有利になってしまう。いわば、大阪の陣のように、最終決戦
の前に城の内堀までも埋められてしまうことになる。改定派は家康のように腹黒
く謀略に長けているので、人々はそれを見抜いてその企みを阻止することが重要
である。
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(整理転載はここまで)

このほかに有権者年齢をどうするかなんて議論もありますが、
それはほとんどパフォーマンスの話で、大きな問題は上記の6点でしょう。
またいつのまにか困った法律が出来ていた、なんて事の無いように、
誰でも納得のいく法案にして、これから生まれてくる人たちにも、
遺恨のない社会を作っていきたいものだと思います。

小林正弥さんの本としては、「憲政の政治学」(↓)なんかもありますが、
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4130301381?ie=UTF8&tag=isobehon-22
お手軽なところとしては、「非戦の哲学」(↓)をお勧めしておきます。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4480059989?ie=UTF8&tag=isobehon-22-22