「イル・ポスティーノ」

久しぶりに、大好きな映画に出会った。
マイケル・ラドフォード監督のイタリア映画で、
「イル・ポスティーノ」(郵便配達人)というもの。
たまたまTUTAYAで見つけたけど、それまでは、
予告編はおろか、映画雑誌でも情報を見たことがない。
そんな映画をどうして選んだかは長年の勘だろう。

映画が始まったその瞬間から、なんとも言えずにいい!
ナポリに近い小さな島の美しい風景が画面に広がり、
そこに暮らすありふれた人々の様子もなぜか心地いい。
なんだなんだ!なぜこんなに心が惹かれるのか?
主人公はうだつの上がらない仕事のない男で、
無口な父親に「大人なんだから働け!」と説教される。
面白くも何ともないシーンなのに雰囲気がいいんだなあ!

そして島にやってきた、チリから亡命中の詩人。
主人公は彼専属の郵便配達人に雇われる。
自転車に乗って郵便物を届ける主人公マリオは、
やがて詩人パブロに詩心の手ほどきを受けていく。
「どうしたら詩人になれるの?」と聞かれて、
「入り江に向かい、ゆっくり岸を歩きなさい」と答える、
パブロの言葉を素直に受け入れて心を開いていくマリオ。

そんなマリオが酒場の娘に恋をしてしまう。
「一目惚れなのか?」と聞くパブロに、
「いや、10分見つめて恋をした」と答えるマリオ。
なんだか映画であることを忘れて嬉しくなってしまう。
「どのくらい話をしたんだ?」
「少しだけ、5,6回話をした」
「どんな?」
「名前は?って聞いたら、ベアトリーチェって答えた」
「他には?」
ベアトリーチェ・・・って・・・」
「他には?」
ベアトリーチェ
「・・・・」

いくつかの出来事のあとマリオはベアトリーチェと結ばれる。
この嬉しくて、ほほえまずにはいられない映画なのに、
最後は悲しい出来事が待っている。だけど不思議と、
悲しみよりはさわやかさが残ったのはなぜだろう。
この映画がいい映画なのかどうか、もう僕にはわからない。
だけどそう、フランス映画「ギャルソン」と同じように、
けっして忘れられない映画の一本になったと思う。