「原子力と環境」

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僕はもう30年前から原子力の利用に疑問を持っていたので、
自分で読む本も、どうしても原子力に問題意識のあるものが多い。
だけど最先端の技術なんかには人一倍興味を持っているし、
原子力エネルギーの利用に関しても、不安材料が払拭されるなら、
ただ闇雲に使っちゃいけないと信じ込んでいるわけではない。
それでも、どう好意的に考えても、問題が多すぎて賛成出来ない。

今回読んだ中村政雄さんの「原子力と環境」は、その意味で、
どちらかと言えば、原子力エネルギーの利用を肯定している本だ。
だけどその肯定の理由が、他のエネルギーよりもいいってことだけで、
僕にはむしろ、高エネルギー社会の問題だけが浮き彫りに見えた。
つまり政府や際限のない物欲に染まった多くの人たちが言うように、
この便利な世の中を維持するにはたくさんのエネルギーが必要で、
それは石化エネルギーでも、自然エネルギーでもまかなえない、
だから安定的に需要を賄える原子力エネルギーが必要だという、
相も変わらず高エネルギー社会を前提に考えている。

なるほど、原子力のサイクル利用がもくろみ通りになれば、
地球の温暖化も防げるし、エネルギーの安定供給にも繋がる?
最大の疑問は、なぜそれほどの危険を冒して高エネルギーを使うのか?
それがとても多くの人の幸福に繋がるようには見えないってことだ。
著者は「繁栄の要因が滅びのモトになった」と言いながら、
その原因を地球温暖化に求めて、その解決策として原子力を擁護する。
ここには、個人が自らの意志で生活を切り開く自由はなく、
個人はコントロール不可能な力に自分の生活を左右されてしまう、
人間が自立しない依存型社会を検証もしないで受け入れようとする。
それが「過密社会が育てた日本の智恵と文化」だと言うのだろうか?

この本を読んでいると、多くの社会的な事件が分析されている。
特に温暖化によってどのような問題は発生しているかよくわかるし、
プルトニュウムを抽出することに伴う核拡散の問題など、
テレビや新聞のマスコミには出てこない視点もあって興味深い。
日本の原子力政策をもっとも押さえ込んでいるのがアメリカだと、
この国の多くの人は話題にすることもないし、ましてや、
プルサーマル計画が世界の核拡散とどのように関わっているのか、
果たしてどれだけの人が認識しているのだろうか?
さて、それでも一番大きな問題はそんなところにはない。

原子力にまつわる一番の問題は、僕にとって30年前から変わらない。
必ず間違いを犯す人間が、万が一事故をおこせばこの国が滅びるような、
そのような危険なエネルギーを使ってまで何を維持する必要があるのか?
しかも首尾良く温暖化の害が和らいだとしても放射能汚染がある。
この低レベル放射能汚染の蔓延によって、20年後の世界がどうなるか?
何も問題がないなんて言える専門家がいるのだろうか?
人間にとってより大切なのは、トイレの便座があたたかいことではなく、
汚染されない水と空気と、生き物が豊かな海と森ではないのか?
原子力を使わないと賄えないような電力ははっきり言って要らないのだ。
夜は足元を照らせるだけの明かりでかまわない、家中暖かくなくていい。
僕らの子どもたちも同じように活き活きと生活を楽しめる環境を残したい。
そう思うのは僕だけではないはずだ。


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