「新・考えるヒント」

もうこれは、去年の鎌田東二さんと同じで、
成るべくして巡り会ったとしか言いようがない。
世の中には、わかっている人がいるものだ。
それを読むことによって、自分のことがわかる。
池田晶子さんの「新・考えるヒント」を読んで、
まずはそんなことを考えてしまった。

僕なんぞが、おこがましいことではある。
だけどこの本の内容こそが「それ」なのだ。
人生の様々なことに疑問を持ってさまよい、
言葉を持って理解しようとすればぶち当たる、
常識による人の言葉のウソ、うそ、虚妄。
教条的で本来の意味を見失っている学問に、
なんど失望し、逃げ出してきたことか。

さらにはそうした現状を批判する人でさえ、
言っていることをよく聞けば同じ穴のムジナで、
根元的な問題から外れている人が多い。
まして批判精神を持たない人と何を話そう。
他人を批判する話など聞きたいわけではない、
本当の批判精神とは自らを問い続けるものだ。
そうした事実をこの本にはよく書いてある。

言い方を変えればこの本に書いてあることは、
ただひたすら「そのこと」でしかない。
先人である小林秀雄の「考えるヒント」から、
多くの文章を引用しながらの語り口は、
うっかりするとどこが池田でどこが小林か、
学のない僕にはまったくもってわかりかねる。
そこでこの本では書体を変えて印刷してある。

それでも僕は渾然一体と文章を読んで、
紛れもない一つの精神を感じれば事足りる。
その言葉は僕によっても同じ光を発するのだ。
十年ぶりに買った一冊の週刊誌で見つけた、
真実に向き合っている人間の言葉によって、
まずこの本に引き合わされたことを感謝する。