「マーメイド・スキン・ブーツ」

桜井亜美の空想恋愛小説ってものでしょうか。
読んでいて現実感がないし、新鮮なわけでもない。
それじゃなぜ最後まで読んでしまったかと言えば、
こうした感覚でしか今を捉えられない人たちがいる、
その一点で何かを表現していると思えたからです。

美大に通いながらバイト生活をしている主人公は、
ダーツでセフレを選ぶような放蕩な生活をしている。
自分は20歳になったら死ぬという強迫観念を持ち、
それまでに自分のすべてを捧げるような恋がしたい。
「Gストリングスのショーツをはくと、裸よりも
もっと素裸になった気がする」この出だしは好きだ。

だけどその後も頻繁に出てくるマイナーな商品名は、
それがどのようなものかさえ表現されていないので、
読む者を遠くへ追いやってしまう空々しさがある。
この主人公は、そうやって自分を他者から遠ざける。
自分をわかってくれる相手を捜し求めていながら、
わかってもらう努力どころか、周囲の手を拒絶する。

読んでいると、単なる世間知らずの女の子の空想で、
こんな子が何人ものセフレとうまくやれる筈もない。
人とうまくやれないことを、クールと勘違いして、
ますます思うようにいかなくなる様子は痛々しい。
男の子のオタクと同類の、萌えに似たものを感じる。
心象的に同類の女の子は増えているのかもしれない。