観桜・朗読会「花宴」

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一昨年の“源氏物語二千年”を契機として、
僕らの源氏物語勉強会は「紫友会」となりました。
そのときから、季節ごとに始めた朗読会ですが、
今年の春は観桜を兼ねて「花宴」朗読を楽しみました。

今回は特に、琵琶演奏者の池田智鏡さんをお招きして、
朗読に合わせて、即興の琵琶音を入れていただき、
また仏尼さんとしてのお話も、聞かせていただきました。
それに合わせて、今回臨時で朗読に参加した人もあり、
鑑賞のためだけの参加者もあって、にぎやかでした。

うっかり、カメラを持たずに行きましたので、
智鏡さんの琵琶演奏ほか、何も画像に残っていません。
そこでなるべく詳細に、様子を報告しておきますと、
朗読会の場所は、古びた散居村の屋敷を再生した民家で、
その6畳二間をつなげた、床の間のある空間でした。

10人ほどの朗読者の場所には、長座卓を並べ、
その他の参加者には、座布団だけが並べてあります。
長座卓には、切り花を贅沢に盛った花器が置かれ、
古い民家の障子戸越しに、差し込む明かりが穏やかです。
人が集まり、お茶をいただき、時刻をやや遅れて開催です。

源氏物語の中でも、初めの方に出てくる「花宴」ですが、
この巻は「六百番歌合」の判者でもある、藤原俊成が、
紫式部、歌よみのほどよりも物書く筆は殊勝のうへ、
 花宴の巻は殊に艶なるものなり」と評したところで、
語数も短く、春の朗読には最適のところでしょう。

当時貴族の桜宴の様子も、興味深い描写なのですが、
その宴が終えて、明るい月の下をさまよう源氏が、
不用心に開いた細殿の戸口を見つけてからがいいのです。
寝静まった戸口の中で、様子をうかがっていると、
「朧月夜に似るものぞなき」と若い声の女がやってくる。
源氏はその袖を捉えて、戸口を閉めてしまいます。

原文の語調に合わせて、智鏡さんの琵琶が鳴り、
智鏡さん朗読の場面では、和歌を詩吟調に謡われて、
何とも言えない、平安時代の香りまでが漂うのでした。
月に一度の勉強会だけでは、味わうことの出来ない、
体感としての源氏物語を、味わったような気がします。

朗読のあと、智鏡さんに「耳なし法一」を演じていただき、
さらに、「富国有徳」のお話をしていただきました。
長い間鎖国をしていた日本に、外国人が来るようになった、
その頃の西欧人が、実際に出会った数多くの日本人は、
貧富の差もなく、質素で正直な暮らしをしていたと言う。
その謙虚で嘘偽りのない、人々の気風を取り戻したい。

智鏡さんのお話は、およそそのようなものでしたが、
それは僕が望む、生き方としての自然農にも通じます。
何の縁でか、初めて出会った人からそんな話を聞く。
二千年をはるかに越える、日本人の心の繋がりは、
失われたとは言え、遺伝子に書き込まれているのです。

願わくば、こうした日本人の心を次世代に繋げたい。
マスコミや国政の論調から、日本人の心と言い出せば、
明治から昭和にかけての、富国強兵的なものになりますが、
多くの日本人が、遺伝子として望んでいることは、
さらに古く、強さよりも「有徳」だろうと思うのです。
 
 
写真は、以前に源氏物語勉強会で撮ったもので、
花宴の和歌を、谷口先生が抜き書きされたもの。
中央上にあるのは、源氏香の箱で、実際に香ります。
また右上にあるのは、源氏歌かるたです。