美しさの奇跡!

決して絵には描けない、
写真にも撮れない美しい風景を見ました。
ちょうど砺波平野の真ん中でのこと。

散居村の屋敷林が点在する田園地帯を車で走っていたとき、
西に太陽が沈んだ余韻で、
赤紫の空に漆黒の稜線が浮かぶのが見えました。

最初はその美しさに見とれていたのですが、
何気なく反対側の東方向を見たら、
今まさに地平線から出たばかりの満月が見えました。

大地から生まれたばかりの月は大きく、
途中に見える家屋敷と同じ大きさでプラチナ色をしています。
そのすぐ横には雪をいただいた連山の姿も見える。

頭上で東西をつなぐ天空はどこまでも澄み切って深く、
僕は思わず車を落としそうになって、
路肩に止めるしかなくなってしまったのです。

とっさに写真を撮ろうと思いましたが、
用事に出ただけだったのでカメラは持っていませんし、
持っていたとしても写すことは出来ません。

砺波平野の全体と立山連邦と西の夕焼けを、
たった一枚の風景に描けるのは、
人間の頭の中だけのことなのだと感じるのです。

落日と同時に月が昇る妙味の奇跡は、
千年昔から月は東に日は西に~と謡われ続けてきました。
さらに先千年にも美しさは伝わっていくでしょうか。

時計を見ると夕刻の5時を過ぎたところで、
僕は何故ともなく切なさを覚えながら車を動かし、
月に追われて家路を急いだのです。

南へ向かう僕の左手の彼方で、
月は山を駆け上り、
やがて夜空に浮かんで小さくなりました。