「北極のナヌー」

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他の地域に比べると、温暖化の影響を最も強く受けている、
北極に暮らす、シロクマとセイウチの母子を追った写真集です。
広大な氷の大陸が、30年後に消えてなくなるのも衝撃ですが、
そこに暮らす動物の危機は、そのまま人類の危機でもある。
そう分かるからこそ、映し出された写真の意味まで考えます。

北極の写真と言えば、僕は星野道夫を思い出すのですが、
この写真集を作ったアダム・ラヴェッチとサラ・ロバートソンも、
星野と同じように、一人で何日も北極の氷の上で暮らすのです。
危険な目にあった報告も載っていますが、どうして彼らは、
命の危険を冒してまでも、極地での映像を撮ろうとするのか?

けれどひとたび、この出来上がった写真集を見てしまうと、
この圧倒的な大自然と、そこに暮らす命の暖かみに感動して、
ひたすら、いいものを見せてもらったことに感謝するしかない。
そんな熱っぽい感動が、この写真集には漂っているのです。
この撮影にかけた15年の歳月が、いとおしくさえ思われます。

この「北極のナヌー」は映画にもなっているようで、
シロクマのナヌーと、セイウチのシーラが産まれるところから、
それぞれが成長して、また母親となるまでの物語になっている。
そうした物語性を味わうには、映画の方が分かりやすいでしょう。
けれどこの写真集にある、写真の一コマ一コマは味わいが深く、
じっと見つめているだけで、様々な思いが沸き上がってくるのです。

中でも忘れられないのは、子どもを抱きかかえるセイウチの姿や、
この写真集の表紙にもなっている、氷の大陸を歩くシロクマの姿。
そしてそれぞれの母子が見せる、深い愛情の絆でしょうか。
さらには、2人の写真作家が書いているレポートも秀逸で、
一枚の写真に費やされる保証のない年月が、無限の深みを思わせる。

こうした宝石のような写真集は、サラッと眺めて終わるのではなく、
じっくりと時間をかけて味わいながら、何度でも見ていたい。
子どもとしてこの世界に生まれて、親となって子を産むまでに、
世界はどんなに過酷であれ、美しい姿を見せてくれていることに、
あらためて、そのすべてに感謝したくなる写真集でした。


「北極のナヌー」公式フォトブックは(↓)こちらから。
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