「中東でなぜイスラムが台頭するのか」

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日本人としては、中東情勢の第一人者と思われる、
現代中東政治を東京外語大で教えている酒井啓子教授から、
イラクを中心としたイスラム問題の講演を聞くことができました。
こんな講演が高岡市で聞けるなんて、実にありがたいことで、
楽しみにして行きましたが、さすがに面白かったです。

まず基本的にイスラム問題の発端はイスラエルによる侵攻だとして、
パレスチナ難民に対するアメリカの冷たさも根底にあると指摘。
イスラム社会に暮らす人々の心情を話されたのはよくわかりました。
すでにアメリカ軍のイラク侵攻が理不尽なものであったと、
アメリカ政府の要人でさえ認めているのに、いまだに差別されて、
原理主義とは何の関係もない若い人たちが憤りを感じ始めている。
こうした新しい事情についても、日本では情報があまりにも少ない。

配布していただいた資料に対する説明を聞いていると、
実際に戦争が行われた2003年の4~5月よりも、
その後の方が毎月の死者が多く、今も減っていないことや、
今年の5月に新政権が出来てからは、イラク民間人の死者が、
膨大な量に増えていることの説明なども納得のいくものでした。
混乱する政治の中で人々を実際に助けているのは宗教組織だから、
その宗教組織に支持が集まるのは自然の成り行きであること。
これはパレスチナにおけるヒズブラの台頭も同じ理由によるわけです。

さらには、アメリカ軍の侵攻によって崩壊したイラク政治に、
海外へ亡命していた要人が戻ってきて政権の座に着いたときに、
その人たちは亡命生活が長すぎて国内には支持基盤が弱かったこと。
それを補強するために、国内での治安活動が強引になって、
内戦と言うしかないような悲惨な状況が生まれていると指摘する。
なるほど、さほど複雑とも言えない民族や宗教の枠組みの中で、
なぜ激しい混乱や殺戮が収まらないかが見えてくる話でした。
この新政権がイラン寄りのシーア派に繋がりがあるために、
アメリカ軍は引き上げたくても出来なくなっているのでしょう。

こうして酒井先生の解説を聞いていると、見えてくる事情の分、
逆に解決までの道筋がいかに難しいかを感じてしまうのも事実です。
僕らはイラクから自衛隊を引き揚げてしまうとイラク問題まで忘れて、
民間人の死者が膨大に増えていることなどニュースにもならない。
さらには差別的な扱いだけが、しっかりと世界中に広がっている。
こうした事情が世界中で5人に1人というイスラム教徒を苛立たせる。
それではこの状況をどのように沈静化させることが出来るのか?

さてここまでが酒井先生の話ですが、僕はもう一つ、この問題には、
グローバル経済文化に対する反発が絡んでいるように思われてなりません。
なぜなら、ちょうどユダヤ人こそが金融経済の申し子であったように、
イスラムの教えは利子で利益を得ることを禁じているので、
アメリカを中心とするグローバル経済を広めようとする陣営にとって、
金融を否定して相互扶助を教えるイスラムの教義は認めがたく、
この点での確執が深く根を張っているように思われるのです。
この点は先生に聞いてみたくもあったのですが、この講演会では、
一切の質問時間を取っていただけなかったのが残念でした。