ウグイスと墓

一年を通じて、真冬の寒い時期以外の季節は、
亡くなったおふくろが寝室にしていた部屋で寝ている。
この部屋では、以前からウグイスの鳴き声がよく聞こえる。
春から夏にかけての、日照時間の伸びと共に、
天気のいい日には、朝早くからまぶしさに目が覚めて、
そう遠くない場所からウグイスの鳴き声が聞こえるのだ。

先週の早朝6時過ぎに、親戚から電話があった。
電話の声の他に、ウグイスの鳴き声がやたらと聞こえた。
お墓の横にある松の木が、折れて墓に倒れかかっている、
早くなんとかしないとまずいだろうと言う連絡だった。
様子がわからないので、ともかく見に行くことにする。
この日は10時から用事が入っていたので、
よほどの大事でなければ、それまでに片付けるつもりで、
ノコギリや植木鋏を持って7時には出掛けた。

なるほど、墓の左手に大きくなっていた松の木の、
上の方で横に伸びて墓を日射しから守っていた松が、
付け根の当たりから折れて墓の上にかぶさっていた。
すぐに折れ枝を切って片付け、ついでに草刈りをする。
その間もしょっちゅうウグイスの鳴き声が聞こえた。
そう言えば、この墓の周囲でもウグイスはよく聞こえる。
それはまあ、偶然と考えればそれまでの話だけど、
このウグイスの鳴き声を聞くと父母のことを思い出す。

僕は味気ないほど、四季の墓参りはしないし、
家にある神棚と仏壇も埃が被ったままになっている。
それはまあ、長いあいだ家を離れていたので、
家の仏壇の先祖や神棚の祖先に親しみを感じない、
ってことでもあるけど、むしろこの家全体、
あるいは野山の自然の中に先祖を感じるし、
ウグイスの鳴き声に父母を感じるからでもある。
今思えば、あの日の電話とウグイスの鳴き声は、
墓の松が折れたと知らせる父母の声だった気もする。