笑う日本人

ちょうど同じ時期に、同じような規模の台風とハリケーンがあった。
アメリカでハリケーン・カテリーナの大被害が報道された直後に、
日本では台風14号の荒れ狂う様子と被害が報告され始めた。
どちらも水による被害が甚大で、日本では雨による洪水と土砂崩れ、
アメリカでは高潮と堤防決壊による未曾有の大洪水になっている。

特徴的には、日本の場合は水が激流となって土砂まで押し流し、
アメリカの場合は広大な平坦地が水に飲まれたまま引いていかない。
そしてそうした地理的な違いと共に、もう一つ気になったことがある。
それはインタビューを受けて答える人の様子だ。

アメリカでは不安、怒り、不満、絶望がそのまま表情になっている。
ところが日本ではそう単純ではなくて、笑いながら話す人がいる。
もちろん、当人はおかしくて笑っているわけではなくて、
ある種のあきらめが、「笑っちゃう」ことで表現されているのだ。

日本人は何か失敗をしたときや、大変な目にあったときに、
「こりゃあダメだ」とか言いながら笑うことがしばしばある。
自然と一体になった生活感から、秋の後には冬が来るように、
人間の力なんてたいしたものだとは思っていないかのように、
誰しもが、ある種の諦念を持ちながら生きているかのようだ。

実はむかし、仕事で失敗をしたときに、笑って怒られたことがある。
自分がミスをしたのに笑うなんて不謹慎だってことだった。
たしかにそうなので謝罪したけど、なんだかしっくり来ない。
そこで、たとえば演歌歌手が悲しい歌を歌ったときに笑うのは何故か、
そんなことが気になって、日本文化の不思議さに気付いたことがある。

欧米人は自然と人間を対立物のように捉えているから、
人間のやることは最後まで人間に責任があるものと考えるけど、
アジアの人たちは、自然と人間を渾然一体として捉えているので、
人間のやることでも、全部が人間に責任があるとは考えない。
むしろ人智を越えた自然や神々との関係性に成功や失敗をゆだねている。

だからとんでもない失敗をしたようなときには笑っちゃうのだ。
「ああ、えらいことになった!」と思うだけで、
欧米人のようには、最後まで自分に責任があるとは考えない。
大自然の災害を前にしても、またコツコツと生きていく智恵がある。